日本の原子力技術レベルは世界トップレベル。でも話題になりません。

昔の東京 原子力
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原子力発電の商業炉のスタートは、昭和45年の大阪万博です。

関西電力美浜1号機の「原子の灯」が日本で初めての世紀の祭典である大阪万博会場に初めて届けられたこと。
ある程度の年齢の方は記憶にあるところでしょう。

福島第一発電所1号機はその翌年の昭和46年の運転開始です。
その後10年かけて6号機まで運転を開始したものです。

運転開始から50年。
ということは計画から建設期間まで含めると、構想からは+10〜20年は悠に経過しているプラントであることは間違いありません。

50年前の機器、使ってますか。

どんな機器でもそうですが、よっぽどのレトロ趣味のある方を除いて、50年前の機器を使い続けることはあまりおられないでしょう。

高校生の時、メーカー名を出して恐縮ですが、SONYのウオークマンが発売されたとき、
必死になってバイトして買った覚えがあります。
当時、当然ながらアナログでしたが、今や携帯電話一つあれば、デジタル音域の素晴らしい曲を際限なく再生することができます。

車は50年前のものと比べてどうでしょう。
当時はマニュアルでトルクコンバーターを搭載した車は高級車でした。
今やマニュアル車を運転されるのはマニアだけです。
ハイブリッドは当たり前、ひょっとすると電気自動車、自動運転対応車をお持ちの方もおられるかもしれません。

原子力と車を比較してみましたのでご覧ください。
勝手に作りましたので、トヨタさまからクレームがあればすぐに配信をやめます。

原子力の性能評価

この表で何が言いたいかというと、原子力にも評価すべき性能があり、車と同じように技術進歩しているということです。

テレビを見ていたら日本地図に原子力発電所立地点が表示され、稼働中・停止中・建設中を色分けした表が表示されることがよくあります。
1970年前後に開発された原子力発電所と、現在建設している発電所が同時に記載されています。

まさに十羽からげです。

事故を起こした福島第一発電所は、私に言わせれば昭和の郷愁が溢れる、モノクロ映像に馴染むスタイリングです。(失礼!)

元々、原子力はアメリカの、ウェスティングハウス社とバブコック&ウイルコックス社の技術を、日本の三菱重工、東芝、日立が継承したものです。
もちろん、当時より技術進歩は著しく、国産化率も100%ととなり、今や国産技術であるといえます。

車なら、50年前に開発されたものと、GPSを駆使した車が同じテーブルの上で議論されることは考えられないでしょう。

原子力も最低限、50年間の運転実績で、どのような研究・知見が積み重ねられ、技術開発が行われてきたか。
明らかにした上での議論が必要と考えます。

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SMR

後ろ向きの話題だけではなく、数少ないですが前向きの話題もあります。

「小型モジュール炉」です。

福島第一原子力事故以降、誰もが話題にすることにシュリンクし、第6次エネルギー基本計画でも上記のような技術的な評価は一切なし。
「反省と教訓を肝に銘じて」ばかりです。
(第6次エネルギー基本計画は改めて記事にいたします。)

こんなんで良いのかと思いながら読み進めていると、突然一言だけ「小型モジュール炉」という言葉が記載されています。

ご存知ビル・ゲイツも会社を立ち上げて参入している次世代原子炉技術と言われています。
経産省の解説では、「SMR(Small Modular Reactor)とも呼ばれ、世界各国で開発が進められています。
その特徴をキーワードであらわすとすれば、「小型」「モジュール」「多目的」の3つが挙げられます。

これまでの原子力開発は、建設そのものが「一兆円プロジェクト」となるほどの重厚長大なもので、福島事故がなければ、第3世代原子炉としてさらに大容量のプラント開発が標榜されていたことは間違い無いでしょう。

「小型化」は福島でコントロール不能になったような大規模原子炉ではなく、はるかにハンドリングしやすい10分の1程度の出力のプラントのイメージです。

冷却水を使用しなくても冷却能力を持ったり、逆に発電設備全体を水没させた状態で発電したり、さまざまな可能性が検討されています。
「モジュール」とはプレハブをイメージすると分かりやすいですが、一点ものの部材ではなく、ある工程までは規格通りに別工場で生産するというもので、大量生産することにより小出力をカバーしようという発想と思えます。

「多目的」というのは、発電だけでなく「水素の製造」や「医療分野」での活用などが見込まれており、大きなイノベーションとして注目ております。

原子力関連の話題として、やっと前向きなテーマが登場してきていると考えます。

電力会社としても新事業として、進出すべき分野なのかもしれません。

原子力に関する技術的な議論はこれまで全くというほどありませんでした。
常に国や経産省の政策論や、イデオロギーのぶつけ合いのような議論ばかりでした。

そういう意味でも「小型モジュール炉」のイノベーションには大変期待しております。

ただ、こういう事態に陥ったのは、電力会社側にも大きな責任があります。
福島第一発電所事故のような、取り返しのつかない事象を起こしたことも当然の理由ですが、決してそれだけではなく、電力会社の企業体質が大きく影響しているのは間違いありません。

この点は前にも配信し、重複すると思いますが、就活生には是非ご認識いただきたい事実なのでお許し願います

その他の技術的課題

何度も言いますが、「世界一厳しい原子力規制委員会の審査をクリアしたプラントから順次再稼働」というのが政府の公式見解です。
われわれに言わせると「そこまで言う?」というレベルの規制基準で、長期的に見ると原子力の大幅なコストアップにつながるのではと考えざるを得ないものです。
今後のことを考えると、溜まり続ける汚染水の海洋放出、除染後の放射性廃棄物の中間貯蔵の問題、当該原子炉の廃炉計画、そして機が熟した段階での、新増設・リプレースの検討。
これから電力会社に入社される方々には、様々な役割が求められるのではないでしょうか。

まとめ

私が考える技術的課題は「軽水炉の型式」と「原子力の性能」にまとめました。
これは課題というか、私自身の疑問と考えていただいても結構です。

また前を向く課題といえば、「第3世代の原子炉」はもう頭からデリートし、「小型原子炉」にリセットするのかなあと思っています。

ただ何度も言いますが、原子力の場合、こういう純技術的議論で物事が決まったことがありません。
今回もそんな感じがムンムンとします。

最近の政府の記者会見やらいろいろ見聞きすると少し悲しいような気がします。

原子力
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。