電力会社就活生の業界や従業員イメージ
14年前の福島第一原子力発電所事故に始まり「原子力の再稼働」「脱炭素」「夏冬の電力需給ひっ迫」「ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源戦略」、電力会社はいろいろと話題になりますが、あまり薔薇色の話は見当たりません。
にもかかわらず、驚くことに、就活生に電力会社が人気ということです。
さまざまな新聞記事やS N Sで拝見いたしました。
企業や飲食店がバタバタと倒れていくのを見て、やはり安定企業への就職を望む方が多くなってきたということらしいです。
就活サイトや、個人のブログなどをいろいろ見せていただくと、就活生の電力会社に対するイメージは、集約すると以下のような感じです。
2.ホワイト企業
3.平均を超える年収
4.年功序列で終身雇用
5.自分のやりたい仕事ができる
6.これから伸びそうな会社
7.供給エリアが狭いので転勤が少ない
なるほどという感想です。
まるで40年前に私の母が「これで長男は大丈夫」と呟いていたようなイメージです。
なんで大丈夫なのかよくわかりませんが、電力会社に就職できたというのは家族にとっては「大丈夫」だったのでしょう。そういうイメージが未だにあるのかなあ、と思っていました。
ところがあにはからんや、ブログ投稿やYouTubeなどを見せていただくと、めでたく入社はかなったものの、実はもう辞めたい・転職したいという方が大変多いような気がしました。
中には辞めてせいせいしたという方もおられます。
一般には、そんな人も羨むような会社に入社できたのに、と思いますよね。
このギャップはいったいなぜなのでしょうか。
是非お伝えしたいと思います。
加えて電力会社に入社したいとお考えなら、どういうところに注目したら良いのか、どういう心構えを持つべきなのか(上からですいません)解き明かしたいと思っています。
電力会社のイメージと実際とのギャップ
就活生(ひょっとするとご家族の方のイメージかもしれません)の電力会社に対するイメージと実際とのギャップを、40年間にわたり在籍した私の経験と時代の変貌を加味しながらお伝えしたいと思います。
この記事をお読みいただくと、退職・転職やそれもできずに我慢しながら漫然と社会人人生を送り続けるという悲劇は回避できるのではと考えております。
一つ一つ私の経験から解き明かします。
安定していて潰れない
電力会社のイメージとしてはこれが最も多いでしょう。
就活生の安定志向の中で電力会社の人気がうなぎ上りという記事を目にしました。
この「安定企業感」というのは、単なる自分のイメージ、親や友達が安定していると言うからとか、いろいろ情報源はあろうと思いますが、よく研究された結果ではないような気がします。
「安定」の定義にもよりますが「電力会社」を「電力供給事業」と読み替えれば、安定してもらわないと生活も産業も成り立たないことになります。
ただ、現体制での電力会社が「安定している」「潰れない」というイメージは違います。
冒頭にも列挙しましたが、今後の原子力の扱い、再生可能エネルギーの動向、国際情勢、電力自由化に伴う新規参入企業の頑張りなどで、現在の大手電力会社の体制、規模感がどうなるかは全く不透明です。
大手電力会社が単なるPPS(特定規模電気事業者)になっても潰れていないと言えるのでしょうか。
私個人的には、更なる「電力システム改革」が必然で、そのことが現大手電力会社の生き残る唯一の方法だと考えております。
戦後すぐに編成された現在の電力会社の形態が、これからも「安定していて変化することがない」というイメージはであるならば、少し甘すぎるような気がします。
今の不透明感をどう切り開いていけるかを考える人が求められているのではないでしょうか。
ホワイト企業
ホワイト企業とはどういうことでしょう。
ブラック企業の反対語と解釈します。ノルマとかパワハラがない。
サービス残業がなく、休暇が問題なく取得でき、福利厚生もしっかりしている。
要は、労働基準法など労働関係法上、問題がないという意味ですね。
そういう意味ではこのイメージは正しいです。
ただし「仕事が楽そう」という意見もありましたが、そこはどうかと思います。
私が原子力発電所現場で広報担当をしていた時の逸話です。
「副長」という現場統括役職で部下が4人いました。
連休の初日にA発電所が復水器関連のトラブル。報道担当と2人で出勤し記者発表はなどの処理が終わったら明け方でした。へとへとになって帰ろうとしたところにB発電所の事故。目の前が真っ暗になりましたが、別の担当者を呼び出し貫徹2日め。
その翌日が統一地方選だったため、朝一に結果を本社に報告せよ。
地獄でした。担当者は交代要員がいても現場統括者は変える訳にはいきません。隙をみて仮眠はとりましたが体は休まりません。
当然、こんなことは滅多にありませんが、近いことは何度か経験します。
また本社勤務になると経営に近いわけですから上層部からの飛び込みの仕事、良く考えないと前に進まない仕事、一人で徹夜してでも悩み続けないと解決できないような業務も多々あります。
月に200時間を超える残業も多かった記憶があります。
確か、本社だけが何回か労働基準監督署の指導が入っていた記憶があります。
発電所・営業所などの現場の仕事ではルーチンの職種が多く、日々の業務をこなせば一日が終わり17時半になれば「はいお疲れ」ということが多いのでしょうが、原子力発電所での3日連続はさすがに問題となったようで、労働組合からのヒアリング・健康診断・社命による有給取得など手厚い対応があったような気がします。もちろん時間外はフル付与です。
これで、時間外は無視・組合もそもそもなし・サービス残業となると大問題ですよね。
これは皆様の感覚で言うと、ホワイト?ブラック?
私は昭和の人間なんで、ブラックなどと感じたことはありません。
忙しい=楽ではないと考えると、決して楽な仕事ではありません。
ブラック企業の象徴として「パワハラ・セクハラ」というのがあります。
セクハラは語るに落ちますが「パワハラ」はどうなんでしょう。
「パワハラ」かどうかは主観の問題もありますが、上司から厳しく叱責されるのも本社では日常茶飯事。当時は何も感じませんでしたが、ダメージを受けやすい方にとっては「パワハラ」なのかもしれません。
平均を超える年収と福利厚生
これについては別のユーザーさんからの質問への回答という形で別の記事に詳しく書いています。
ご参照願います。
とにかく電力会社社員の給与・賞与はさまざま話題となり、あげつらわれます。
福島第一原子力発電所事故で原子力が全停止した際の電力料金の値上げ、料金値上げの際の経済産業省や消費者庁からの厳しく査定。
辛いものです。
※電力会社就活生の疑問にお答えします。ー給料レベルと福利厚生は?
年功序列で終身雇用
年功序列は完全に崩れつつあります。
以前は官僚同様、年次逆転は絶対にありませんでしたが、今では頻繁に起こっています。中には上司部下で同期とか、年次逆転をいうことも日常茶飯事です。
今後、業界の方向性次第で、また電力システム改革が現実化すれば、先輩だから後輩だからというような考え方は通用しなくなることは間違いありません。
終身雇用はほぼ間違いありません。
定年延長につきましても、給与は減額しますが法定の年齢までは勤務することができます。
ただ、みなさんのイメージで、少し欠落している部分があります。
定年まで電力会社の仕事を続けられるのかどうかです。
ご承知の通り、2000年の大口電力自由化の際、他業種の業界参入が可能になる代わりに電力会社も他業種に参入できることとなりました。
電力会社がガス事業に参入したことはコマーシャルなどでご存じだと思います。実はそれだけではなく、どの電力会社も20年間の間に100社近い関係会社を立ち上げています。
電力会社にはもともと保有する優位な企業シーズがいくつかあります。
火力発電のために調達ルートを持つLNG、その余剰分を活用するガス事業、保有していた光ファイバー網を活用しての通信事業、保有土地を活用する不動産事業などです。
電力会社に入社されるつもりが、適正によってはグループ事業に出向ということも普通にありますので、覚悟を持っておかれる方が良いと思います。
同期の中に、ある日突如「不動産鑑定士」の資格を取れと言われ、そのまま不動産の関係会社に行ったきりとか、技術系の中には、電力技術に触れることもなく最初から通信会社に出向し、給料だけを電力会社からもらっているという社員もいました。
覚悟が必要ですが、どこに自分の幸せがあるのかもわかりません。
全然門外漢の仕事を「こっちの方が楽しい」とかいって、気楽に生きている人も多いです。
自分のやりたい仕事ができる
これは技術系と事務系に分けて考える必要があります。
技術系は学生時代の専攻に専門性があるため、関連する部局に配属される確率が高いといえます。
それでも、適正によっては、技術系の事務系転用や部門間異動などで、全く門外漢の仕事をやらされるケースもあります。
加えて、今後原子力や化石燃料由来の火力発電所の動向によっては、当該専門家は不要となる可能性もあります。技術温存という観点からも大問題と考えています。
事務系に関しては、何をやらされるか全くわかりません。
年に1度くらい希望を聞いてきますが、希望通りになったという話は聞いたことありません。
「事務系はゼネラリスト」です。人事当局の思いのままか年次送りです。
この点につきましては、電力とJRから内定をもらってJRに入社したが、やりたい仕事と違う仕事だったので、1年で退職して電力会社に再挑戦するという方の紹介をしています。
これもご参考に。
※電力会社就活生の疑問にお答えします。ー電力会社とJRどっち?
そもそも就活生のみなさまは「やりたい仕事」と言いますが、電力会社にどんな仕事があるかご存じでしょうか?そこの研究をスルーしておられるので、認識のギャップがうまれるのではないでしょうか。
メーカーや流通と違い、電力会社の仕事は、外部からみていても本当にわけがわかりません。
筆者は「実は転職希望が多い理由はここでは」と思い至り、他には絶対にないお仕事解説記事をアップいたしました。事務・技術別に「超具体的に」解説いたしました。
文系(事務系)のコンテンツは下記です。
みんな知らない電力会社のお仕事。 超具体的解説:文系(事務系)。
理系(技術系)のコンテンツは下記です。
みんなの知らない電力会社のお仕事。超具体的解説:理系(技術系)。
これから伸びそうな会社
電気は生活や産業がどのように変化しようが、必ず必要なもの。
すたれるはずがない、ということでしょうか。
人間髪の毛は必ず伸びる。
だから散髪屋さんは絶対にすたれないと仰っているように思えます。
電力会社の今の体制は、70年前に出来上がったシステムのままでこれからも伸びていくとお考えなら、100%間違いです。これまで書いてきたような、電力会社を取り巻く様々な周辺環境を全て認識した上で、「伸びそうな会社」と思われるのであれば素晴らしいことで、面接の際に面接官の前で具体的に開陳されるべきです。
まさに電力会社が求めるべき人材ではないでしょうか。
供給エリアが狭いので転勤が少ない
これは完全に間違いです。
まず、供給エリアと転勤の多少に何の関係があるのでしょうか。
供給エリアが狭いとしても自宅通勤できる場所は僅かです。
人事異動は2~3年ごとに行われ、通勤可能かどうかは全く考慮されません。
また、地方の電力会社であっても、各種関連の会社やグループ会社、団体などは東京に本社機能を置いているところがほとんどです。
自由化の際の新規事業展開で、海外に合弁会社を設立しているケースもあります。
また自由化の際、他電力との関係も様変わりしており、それまでの蜜月から競合相手となっているケースも多々あります。
そういう意味で、日本全国供給エリアとなると考えた方が妥当であると思えます。
加えて、将来の電力会社の有り様によっては、なにが起きるかわかりません。
転勤がご出身地域から遠くになることは少なそう、と思われているのなら、電力会社への就職は避けられた方が良いかと思います。
まとめ
ここまで述べてきましたように大手電力会社を取り巻く環境は様変わりしています。
「電力会社は安定していて潰れることはない」という、就活生諸氏のイメージは脆くも崩れ去っていることはご理解いただけたものと思います。
・安定志向がダメなことはわかったけど、どんな人が電力会社に向いているの。
・いま何をすればいいの。
まず、ここまで書いてきたような、電力会社の現状を正しく理解してください。
申し訳ありませんが、親御さんや取り巻きの知ったかぶりは、外れています。
まずは、上記記事で、電力会社の仕事内容を具体的に知ってください。
2025/2/20 第2稿