電力会社就活生なら「第6次エネルギー基本計画」は暗記すべきです。

経済産業省 エネルギー基本計画
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2021年10月、第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました。

エネルギー基本計画は経済産業省により3年に1回程度見直しされ、時々の世界情勢や経済情勢が反映されます。
エネルギーの基本政策の基本的な方向性を示すもので、中心は当然ながら発電事業が中心となります。
電力会社の就職希望者にとりましても、何かを語り考える際のバイブルというべきもので「それはまだ読んでいません」という答えはあり得ないことです。
この基本計画は、需給計画、電源開発計画、人員計画など、電力会社のあらゆる経営計画・方針に深く関連するものです。
加えて電力は、国の経済成長や産業構造の根幹にかかわるものであり、経済界そのものが大きな影響を受けます。
結果、産業界全てが電力の動向には深い関心を持ってウオッチしておられます。
したがって、電力に関わる者は、日本経済全体の根底を支えているという自負を持って業務に取り組むべきと考えております。
第6次エネルギー基本計画は是非ご自身でお読みいただきたいと思います。
全文は膨大なものなので、サマリーを添付します。
エネルギー基本計画の概要(令和3年7月21日)
また、経済産業省の雰囲気の変化を知っていただくため、2010年のエネルギー基本計画のサマリーを添付します。
2030年に向けたエネルギー政策(平成22年7月16日)
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2010年のエネルギー基本計画の躍動感。

2010年、すなわち東日本大震災の前年に、「2030年に向けたエネルギー政策」〜新たな「エネルギー基本計画」の策定について」という文書が経済産業省から発出されております。
概要だけですが、今回の「第6次エネルギー基本計画」と比較がしやすいので、参考にさせていただきます。
もちろん、福島第一発電所事故の前なので、表現されている文章の躍動感すら感じます。
原子力中心のエネルギー供給構造で、エネルギー政策の下押し圧力としてはカーボンニュートラルくらいだと思いますが、それさえも「革新的エネルギー技術の開発・普及」による「低炭素型成長」という言葉で、イノベーションとして捉えようとしています。
簡単に骨子だけ列挙します。
○基本的視点
  • エネルギー・セキュリティー、温暖化対策、供給効率性。
  • 環境エネルギー分野での経済成長、エネルギー産業構造の改革
  • 2030年、エネルギー需給構造の抜本的改革。

○数値目標

  • 自主エネルギー比率、70%
  • ゼロ・エミッション電源比率、70%
  • 民生部門のCO2排出量半減。
  • 産業部門の世界最高エネルギー利用効率。
  • 世界トップクラスのエネルギー製品国際市場シェア。
  • 2030年にエネルギー起源のCO2、90年比で▲30%。
○具体的対策
  • 資源確保。安定供給強化への総合的取り組み
  • 自立的かつ環境調和的なエネルギー供給構造の実現。
    2020年までに原子力新増設9基、2030年までに14基。
  • 低炭素型成長を可能とするエネルギー需要構造の実現。
  • 新たなエネルギー社会の実現。
  • 革新的なエネルギー技術の開発・普及拡大、国際展開。
日本のエネルギー技術の高度さ、可能性を自負し、行先には新しい成長分野が見られ、世界に先んじて進んでいくという、国の将来を見通す希望のようなものまで感じます。

第6次エネルギー基本計画に見える経産省の落ち込み。

約10年後の「エネルギー基本計画」ですが、驚くほどの「様変わり」です。
逆に言えば福島第一発電所事故のインパクトがそれほど大きかったということで、仕方ないことのように思えます。
ここから、いかにしたたかにエネルギー業界を蘇らせるかは、皆様方の手腕と知恵にかかります。
同じフェーズで骨子を列挙します。
○全体像
  • 東電福島第一の事故10年の歩み。
  • 2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応。
  • 2050年を見据えた2030年に向けた政策対応。
○東電福島第一の事故10年の歩み。
  • 事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組むことが、エネルギー政策の原点。
  • 福島の復興・再生と、安全最優先。
  • 処理水の海洋放出と風評対策。
  • 避難解除への取り組み。
  • 可能な限りの原発依存度の低減。
○2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応。
○2030年に向けた政策対応。
  • 需要サイドの取り組み。省エネ、蓄電池。
  • 再生可能エネルギー、主力電源化。
  • 原子力、福島事故への真摯な反省、小型モジュール炉。
  • 火力
  • 電力システム改革
  • 水素・アンモニア
  • 資源・燃料
という具合です。
10年というのは短いのか長いのか。
被災者の方にとっては復興等というには程遠く、帰還も果たせない方が多くおられます。
帰還困難な方にとっては10年なんて、あっという間の短期間だったことでしょう。
こういう方がおられる以上、電力会社もまだまだ短期間で、原子力を云々することは控えるべきと思います。
今回の「第6次エネルギー基本計画」の閣議決定にあたり、できる限り「再生可能エネルギー」でいくという政府のコメントは、この点に配慮されたものと勝手に思っています。
ただ、電力事業に関わるものとしては、理想のエネルギー政策をいかにすべきかは考えておくべきだと思います。
そのヒントは実は「エネルギー基本計画」そのものにあると思っています。

10年前と第6次「エネルギー基本計画」を比較すればすぐにわかります。

具体的には、2030年電源構成比率の比較です。
両計画とも絵姿を提示しております。

                             2010年ver.       2021年ver. 

 石油          13.5%        2%
 液化天然ガス      16.2%       19%
 石炭          11.0%       20%
 原子力         21.4%       20〜22%
 再エネ         37.8%       36〜38%

どうですか何か気づかれましたか。
10年前意気揚々と日本のエネルギー政策と技術に自信満々で躍動感溢れる「エネルギー基本計画」と、福島事故後の反省と教訓を前面に出すものと何の変わりもありません。
温暖化対策で石油を少し控えましょうというくらいです。
私には温暖化対策というよりも、中東に依頼する資源はもうやめようと言ってるだけとしか思えません。
いずれにせよ、ゼロ・エミッション電源は再エネと原子力しかないという意思表示のように思えます。
シェアも全く同じです。
再生可能エネルギーなど夢物語と思っている私には、「やっぱ原子力です」と仰っているとしか思えません。
だとしたら、これまでのような重厚長大さだけは見直す必要はあると思います。
そのため、第6次エネルギー基本計画では「小型モジュール炉」というキーワードだけはソーッと潜り込ませておられるのかもしれません。
参考:原子力発電の技術開発、技術進歩の話はほとんど話題になりません。
電力会社就職希望者諸氏には、マスコミや世の中の雰囲気に右顧左眄されることなく、何をすべきか定見を持つ努力をしていただきたいと思います。
エネルギー基本計画
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。