電力安定供給の考え方です。「電力需給逼迫」だけでは分かりません。

日本の真冬風景 エネルギー基本計画
スポンサーリンク

「第6次エネルギー計画」の概要版は暗記する勢いで。

第6次エネルギー計画はじっくりお読みいただくとして、まだ解説したい点はあります。
例えば、新しく就任された西村経済産業大臣が大変重要なことを記者会見でコメントされたりしております。
今年の冬も電力需給は大ピンチ!

そのことは次回触れます。
ただそこにいく前に、通常電力会社が、電力不足を生じることが無いように、どのように考えるかを簡単にご説明いたします。

よく今年の夏は何とか大丈夫だが冬は厳しいとか言われております。
なぜ、どのように厳しいのでしょうか。
「何となく電気が足りなくなりそう」とか思われていると思いますが、もう少し詳しく知りましょう。

電力が足りるかどうかを予想するときに重要なのは電力使用量ではなく、設備容量です。
台風で言うなら、風速(これは平均値です)ではなく、瞬間最大風速です。

年間、季節、一日、時間軸は関係なく「電力需要の最大値が何KWか」が重要です。
KWH すなわち電力使用量は重要ではありません。
KWHというのはどれだけの設備がどのくらいの時間稼働したかという面積を表します。

ご存知の通り、電気は発電した瞬間に消費される商品です。
ある単位時間あたり最も電気使用量が増える瞬間、その瞬間をピークと呼びますが、一瞬でも準備した電力設備がピークを下回ると、その瞬間に電力供給はショートします。
そうならないように、電源開発計画や需給計画を練り上げます。
簡単に言えばですが、ショートしないように発電設備を準備するのです。
準備が無理なら、需要を押さえるしかありません。
「省エネ」などという皆様の良心に裏付けられるような単純なものではなく、シビアな大口需要家との電力使用契約です。
需要制限を求められる企業は死活問題ですし、料金を値下げしますので、電力会社にとっても大変な交渉です。
やわな温室育ちが交渉窓口になると精神崩壊に陥るケースもあります。
相手も海千山千です。
また発電所の定期検査の計画、例えば原子力などは2〜3ヶ月の定期検査が義務付けられていますが、絶対にピークと重ならないように調整したりします。

会社の全てのルーチンの対応は全てこの「ピーク」に向けて存在すると言っても過言ではありません。

スポンサーリンク

電力会社のピーク対応は概ね以下です。

まず需要予測、特に年間のピーク時にどのくらいの電力が使用されるか想定します。
ほとんどの場合は夏の猛暑時にピークが来ると予想します。
産業用の需要に加え、猛暑のエアコンの需要が大きく、大概はお盆休み前後に需要のピークを迎えるのが通例でした。
私が入社した40前からはずっと「真夏を乗り切るために」という合言葉でした。
冬にピークを迎えるのはこれまでは北海道電力のみで、その理由はおわかりいただけると思います。
北海道を除き、以南の各社は、夏ピークを乗り切るために、毎年、万全を期していたと言うことです。

ピーク時の需要予測ができると、各社それを賄うため、予測値に予備力8~10%程度を加えた発電設備形成を検討します。

例えば需要が5000万kw(東電管内はこの程度と記憶しています)と予測すれば、コストの安い順にまず水力で500万kw、次に原子力で2000万kw、水力は僅かであり大容量の原子力をフル稼働させる。
原子力がベース電源と言われる所以です。

次にLNGで1500万kw。
最後に最もコスト高な石油・石炭で1000万kwというふうになります。
LNGや石油・石炭を燃料とする火力発電は、ベース電源に対して調整用電源と呼びます。
需要が少なく必要でない時は発電をしません。
電気は発電即需要という商品で在庫がきかないため、事前に発電所と燃料を準備しておくということです。
全てのピークを乗り切るための方策を机の上に並べて、ベストチョイスする。
本来はこれが「エネルギーベストミックス」であったはずです。

ご承知の通り、東京電力では原子力は全停止ですので、ベース電源たるべき膨大な発電量をどのように賄ったのか、詳細はどこにも出ておりません。
が私の想像では、

  • 企業との契約に基づく供給調整。
  • 他電力との融通。(東海地方にある周波数変換装置の容量は90万KW)
  • 老朽火力発電所の稼働。
  • 太陽光発電、各企業保有発電所の稼働要請。
  • 揚水発電所の稼働。

くらいしか思いあたりません。
この需要と供給のバランスは、各社「給電指令」という部署で一元的に管理されています。
今年は予備力が冬に1%!
私が現役の時代には、正月三が日を原子力で賄った。
と言うのがニュースになったこともありました。
隔世の感です。
電力社員は驚き、給電指令の担当たちが大慌てしている様子が手に取るようにわかります。

原因は複合要因と言われています。

  • 想定をはるかに上回る「大寒波」による空調需要の増大。
  • LNG産出国で重なったトラブルとパナマ運河渋滞による、燃料調達の困難と遅延。
  • 悪天候による太陽光発電の無効化。と言うことらしいです。

昨今、自然現象が激甚化しているように思います。
「雪よ。お前もか。」という感じですね。

ご認識いただきたいのは、この後です。

予備力1%と、電力会社は追い詰められ、他電力と電力融通しあっていますが、それでも、九州電力の原発3基は稼働しているという事実です。
玄海3号機の118万kw、川内1、2号機の89万kw×2、合計298万kwです。
これがなければ経産省も呑気にしておられず、コロナの緊急事態だけでなく、国民への計画停電のお願いも同時進行させなければならなかったのではないでしょうか。

原子力を賛美しているわけではありません。
先般引用した経済団体連合会の方のコメントが頭を駆け巡ります。

再度引用します。

経済活動の減速はやむを得ない。
だが、政府は目先の話だけでなく、先の見通しを話すべき。
「経済」をとるのか「原子力」をとるのか、決断する時がやってきているのではないかと思う。

このコメントは珠玉です。
電力会社面接官からの、原子力発電に関する質問の回答(例)です。
で詳細に私の思いの丈を記事にしています。
もう一度是非お目とおしを。

西村新経済産業大臣に期待します。

新経済産業大臣就任会見で、原子力の更なる再稼働はもちろんのこと、慎重な言い回しではありますが「原発の新増設は現状は想定しないものの、次世代炉の研究開発は将来を見据え進める。」とのコメントを出しておられます。
参考:西村大臣記者会見

次回、第6次エネルギー基本計画の一側面(解釈)として、この話題を取り上げます。
また8月23日の「グリーン・トランスフォーメーション実行会議」で首相の驚きの表明とともにお伝えいたします。

エネルギー基本計画
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。