小型モジュール炉(SMR )の開発状況をお伝えいたします。
先日もお伝えいたしましたが、突如政府からの小型モジュール炉SM R(Small Moduler Reastor)に関しての発表が相次ぎました。
次世代型原子炉のあり方の検討という脈絡です。
引用します
小型モジュール炉(SMR)などの次世代の原子力発電所のあり方についても言及した。「研究開発、人材育成、原子力のサプライチェーンの維持強化など将来を見据えた取り組みもしっかり進めたい。」と述べた。
一方で新増設は「想定していない」と従来の政府方針を引き継いだ。(西村経済産業大臣)
岸田首相は会議の終わりに「次世代革新炉の開発・建設など政治判断を必要とする項目が示し、あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してください」と発言した(岸田総理)
第6次エネルギー基本計画の深読み
被災者の方にとっては復興などというには程遠く、帰還も果たせない方が多くおられます。
帰還困難な方にとっては10年なんて、あっという間の短期間だったことでしょう。
こういう方がおられる以上、電力会社もまだまだ短期間で原子力を云々することは控えるべきと思います。
今回の「第6次エネルギー基本計画」の閣議決定にあたり、できる限り「再生可能エネルギー」でいくという政府のコメントは、この点に配慮されたものと勝手に思っています。
- 「原子力」は「福島第一発電所事故の反省と教訓」と言う表現ばかりが目立ちます。
がたった一言だけ「小型モジュール炉」と言う言葉が登場します。
ワンフレーズのキーワードであるだけに、私には余計印象的に思えました。 - 2030年時点の電源構成比率に関し、「石油」の利用削減以外は「原子力」を含めて何も変わってっていません。
10年が経過し、ようやく原子力利用に再度舵が切られました。
これまで原子力は典型的な重厚長大産業で、複数機同時に建設すれば1兆円プロジェクト。
出力も100万キロワット級。
ベース電源と言われる所以です。
ところが、今回注目されている「小型モジュール炉」はその名の通り「小型」。
30万キロワット以下程度のプラントを指します。
理由は後ほどお伝えいたしますが、10機作れば300キロワットで、現状の発電所サイト程度と言う発想です。
これにも福島事故の影響が大きく関連しています。
更にこれまでは、現地製作の一点ものでしたが、「モジュール」ですから大量生産ができないかという発想も持たれています。
事故による工事遅延で大赤字を出した原子力メーカーが、その状況をブレークスルーするために考え出したという説もあります。
メーカーしたたか!
もちろんそれ以外にも理由はあります。
- 福島後であり「安全性」を最優先に考え、自然冷却をが可能な設計としたため必然的に小型化したということです。
結果、従来プラントと比べるとハンドリングも非常に安全なものとなっています。 - ほとんどの工程が工場のため、工期短縮やコスト低減が可能。
今や設計上は原子炉ではなく、タービンがコストアップ要因となっており開発競争となっています。
また、小型モジュール化といえども、車のように大量に買い手がつく商品でもないため、今では、逆にどこまで出力を上げるかが課題になっているとのことです。 - 大規模なインフラ整備が不要なため、需要規模の小さい地方や寒冷地、僻地、離島での利用も可能となります。
- 多様なニーズに応える原子力技術のイノベーションとも位置付けられ「水素製造」なども期待されています。
世界の主な開発状況をご紹介いたします。
開発につきましては、アメリカが10年ほど先行していますが、近年、日本企業の研究開発も活発化しています。
2019年から、「NEXIP(Nuclear Energy× Innovation Promotion)イニシアチブ」の下で、民間企業などによる革新的な原子力技術開発の支援を始めています。
NuScale SMR
- すでにアメリカNRCの設計認証審査をクリアしている唯一の原子炉です。
技術開発、手続き両面で世界で最も進んでいる型式と考えていいと思います。 - 格納容器、圧力容器、蒸気発生器など、これまで一次冷却材系統を全て内蔵し、全体を水没させるという大胆な設計思想を持った加圧水型炉です。
日本からは、日揮、I H Iが資本参加しており、出力は7.7MWe✖️最大12機で、現状プラントのスケールを担保します。 - 非常時は当然ながら水没させた水で対応、通常時は自然冷却方式によるため、運転員自体不要という徹底されたものです。
高経済性単純化沸騰水型原子炉(ESBWR)
- アメリカのGE提唱で、東芝・日立他が出資するもので、「原子炉の周りに定量のプールを設置。
原子炉を貯水された大量の冷却水で冷却し続けるというコンセプトで、自然冷却と重力により炉心と格納容器を冷却するものです。 - イメージとして、発電所全体が水没しているイメージで、何かあった時には積極的な操作をすることなくとも自動的に安全確保に向かうフェイルセーフの着想です。
テラパワー
- 小型モジュール式ナトリウム原子炉と呼ばれる、ご存知ビル・ゲイツが会長を務める原子力開発ベンチャー企業です。
- ナトリウム冷却高速炉の開発をしておりアメリカのGEと日立ニュークリア・エナジーとの共同開発としています。
ただ、我々古い電力マンは、高速増殖炉(FB R)で相次いだ「ナトリウムー水反応」の恐ろしさを知っており、一縷の不信感は拭いされません。
BWRX300
- カナダ中西部サスカチュワン州の州営電力会社のサクスパワー社が採用しようとしている「小型モジュール炉」で、30MWeの出力を目指しています。
ロールスロイス
- 以外な会社に聞こえると思いますが、ロールス・ロイスは、1950年代からイギリスで原子力潜水艦プログラムの原子炉の設計・製造を行なっており、数十年にわたる経験を有しています。
- 2021年7月、英国原子力エンジニアリング会社キャベンディッシュ・ニュークリアと設計・許認可、製造等の協力覚書を締結し、加圧水型原子炉技術を基盤とする小型モジュール式原子炉を開発する予定です。
NUWARD
- フランス電力公社(EDF)ベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業であるトラクテベル社が進めるもので、加圧水型軽水炉を小型化したものです。
- 設計思想はオープンになっていませんが、絶大な競争力と原子力大国を支え続けたフラマトム社も関与しており、多大な期待が寄せられています。
この他、アメリカでは、事故時の最終段階で格納用機内の冷却を、外部注入に頼らず、水浸しにするという静的冷却を取り入れた「 A P1000」の実用化を目指しています。
これは出力が大きいため「小型モジュール炉」の概念から除外すべきと考え、補助的な記載に止めました。
発電所のパフォーマンス思想としては「小型モジュール炉」と同様と考えます。
私が考える問題点。
「小型モジュール炉」のような次世代炉に思考転換して、安全な原子炉を採用していこうとする方向性は、エネルギー政策の大きな前進と考えます。しかし、いくつかの疑問点と懸念が頭を駆け巡ります。
重厚長大政策の後始末。
福島事故を起こした国としては、新しい概念への転換はやむを得ないと考えます。
しかし、これまで積み重ねてきた重厚長大さの後始末はどうするのでしょう。
現有プラントの再稼働や運転期間の見直しは理解できますが、どうやっても廃炉時期はいつかやってきます。
リプレースもいかに小型とはいえ、現状プラントの廃炉なしに可能なのでしょうか。
更に増加する放射性廃棄物の問題はどう整理するのでしょうか。
核燃料サイクルは断念せざるを得ないと思いますが、何か良い手はあるのでしょうか。
新車をどうしますか。
現状プラントの中に、運転開始後そんなに時間がたっていない、東北電力東通発電所(2005/12月運転開始)や、まだ運転していない発電所(電源開発大間発電所)のような第3世代と言われるような最新のプラントもあります。
東日本の電力需給の厳しさと、冬の寒さに思いを馳せると、北海道電力の泊発電所ともども早急に決断すべきです。
前に原子力発電所を自動車に例えましたが、最新の機能を備える「高級新車」です。
日本のメーカー、電力会社は。
世界各国で「小型モジュール炉」の研究・開発をがスタートし、日本のメーカーもさまざまなプロジェクトに参加しています。
ただ、純国産技術と言われると、色々調べましたが「三菱重工の多目的一体型小型炉」のみしかヒットしません。
「技術立国」と言われた日本の姿が見えず、悔しい限りです。
また、日本の電力会社は自社開発を誰かから止められているのでしょうか、それとも技術力不足?
更に悔しいです。