電力システム改革の果実が「送配電分離」。これは失敗でしょう。

変電所夕景 分社化

これまで、電力会社の企業体質から見える電力会社の残念さ。
※変わりたい変われない電力会社の企業体質。このままでは周回遅れに。
さらに、電力会社を取り巻く環境変化により変わらざるを得ないところまで追い込まれていること。
※電力会社を変える4つの環境変化。就活生の皆様、これがキーです。
をお伝えいたしました。

今日は国が制度として考えてこられた「電力システム改革」をテーマにしたいと思います。
私個人的には現状の「電力システム改革」では不十分だと考えています。
記事の方向性としては、今回は私の勝手な思いを語らせていただきます。

ただ、「電力システム改革」後の現状の姿は電力会社側も業界としてのベストを追い求められ、経済産業省等と交渉を重ねてこられた結果だと思います。
また就活生諸氏は、電力会社の役員や人事担当者に認められなければならない立場です。
今日の話は、OBの中にはこう言う考え方を持っているものもいるというスタンスでお聞きいただきたいと思っています。
決して、あなたもこう考えるべきなどという押し付けがましい気持ちは一切ありません。

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官から民へ。民でできることは民で。

過去の劇場型総理大臣の言葉で、有名になりました。

前に「過去の栄光」というタイトルで、戦後復興から高度経済成長を支えてきた電力会社という記事を書きました。
これはこれで事実です。
私が入社した頃は、電力マンになることは「人生の勝ち組候補者」になったみたいなもの。
親も一安心でした。

しかしその後、国鉄・電電公社・専売公社・道路公団・住都公団・郵便局、時間差はありますがどんどん民営化していました。
なんの苦労もせずに、楽して儲けてやがる。
自分たちの安定のために「民業圧迫」しやがって。
本当にそうなのか、事実は全く知りませんが、そういう妬み・嫉み・恨みが渦巻き、誰が見ても官と民の重複投資になっているところ、例えば国鉄と民間路線が並行して走るような鉄道事業や、誰が見ても民間でやる方がサービスが良くなる事業から順に民営化していったような記憶があります。

私の親もよく電力会社を「半官半民」と口にしていましたが、違います。
「公益事業」という意味不明な言葉もありました。
ただ身内さえそう思うほど、限りなく「官」の匂いがしたということでしょう。

遠い遠い昔から、電気・ガスはあまりにも生活に密着している商品なので原価高騰の圧力とかがあった時に、安易に値上げや借金の積み上げに向かわれると大変なことになる。
「民」であれば効率化で切り抜けようとするであろう。
これがどうも「民営、認可性」の理由のようです。

でも本当に電気・ガスのシステム改革はここまでなんでしょうか。
経産省が「電力システム改革」の経緯をまとめておられます。
※「経済産業省」電力システム改革の概要

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「電力システム改革」の概要

きっかけはやはり福島事故。

それまで四半世紀にわたり、さまざまに検討されてきた電力自由化を中心とした「電力システム改革」。
これを加速させたのは、やはり東日本大震災と福島事故です。
業界を取り巻く事情は激変しましたし、電力会社の企業体質も全て露呈いたしました。
もう止めることはできない。という感じです。

「電力システム改革」の目的。

目的は以下の3点です。
いずれも福島事故以降電力供給のスキームが大きく変わり、「電力システム改革」をやらざるを得ない。
だったらどんなことに手をつければ良いのか。
思考がありありと透けます。

  1. 電力の安定供給
    電源の多様化が不可避な中で、送配電部門の中立化と、全電力会社的な需給調整能力の強化。
  2. 電気料金の最大限の抑制
    競争やメリットオーダーの仕組みの徹底や、発電投資を適正化し、電気料金を最大限抑制する取り組み。
  3. 需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大
    需要家が電力を自由に選択できる仕組みを整え、新規参入やイノベーション等業界活性化の工夫が必要。

軸となる3つの取り組み。

  1. 広域系統運用の拡大
    電力融通をできる仕組みづくり。
    「広域的運営推進機関」を創設による周波数変換装置の増強や、地域間連携線の運用見直し。
  2. 電気の小売りと発電の全面自由化
    段階的自由化により、一般家庭の電力選択の実現と、競争を通じて、電気料金の最大限の抑制。
  3. 法的分離による送配電事業の中立性確保
    送配電部門の別会社化により独立性を高め、公平性を高める。

法的分離は正しかったのかどうか、見解はわかれます。
発送電分離には大きく4類型があると言われています。

  • 会計分離 :送配電と他部分の会計を分離する。
  • 法的分離 :送配電部門を別会社とする。
  • 機能分離 :送配電部門の所有権は電力会社に残し、運用や計画を独立した系統運用機関が実施する。
  • 所有権分離:送配電部門を別会社とし、資本関係も認めない。

本当に送配電の運用の公平性を保つためには、完全にこれまでの電力会社と切り離すべき。
そうでなければ、地域権益が優先される。
当然のことで、私も法的分離という決断は、どうかと思っています。

ただ今回、本当に問題視したいのは以下です。

分社化は送配電部門だけで良かったのか。

このブログで何回も書きましたが、昨今の政府や経産省の決断。
すなわち、原子力再稼働、新増設・リプレースの決断には驚いています。
それ以前の「世界一厳しい規制基準に合格したプラントから順次再稼働」という政府方針にも大賛成でした。
ただ「技術的には」です。
原子力規制委員会は技術的安全性の判断は世界一だと思います。
ただ、誰が原子力を運営するかについては、権限も興味もありません。
過去の原子力規制委員長の発言を聞くと明白に感じます。

また、何かが起きそうな気がしてなりません。

自由化の取り組みには「発電の全面自由化」も含まれていますが「原子力」というイメージは全くなかったのでしょうか。
エネルギー基本計画には、原子力20〜22%とありますが、実態としては暫くは絶対無理だから議論しないということだったのでしょうか。
それとも本気で議論すれば「国の責任で」となるのは明らかで、それは避けたかったということでしょうか。

業界の「東西の雄」の体たらく。
もう一度だけでいいですから、冒頭にご案内した2記事をお読みください。
東京電力の傲慢さと無配慮。
関西電力の金まみれ体質とあり得ない記者会見。

現行のままの電力会社の体制・体質で原子力の運営は無理です。

巨大企業の電力会社といえども、何かあった時の原子力運営を一民間企業が責任主体になり得ないことは、福島事故で証明されていると思います。
「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」の資本金は140億円。
うち70億円が国で、残り70億円が原子力事業者等とあります。
残り70億円は「東京電力」ではありませんよ。
「電力業界」です。

もう一度「電力システム改革」を議論すべきと考えます。
ではなく「電力再編」を議論すべきです。
70年の錆と垢を徹底的に落とす時です。
原子力は、国かそれに近い組織での運営が必然と考えます。

今回の記事、冒頭でも申し上げましたが、就活生には過負担と存じます。
読み流してください。
ただ、私見と言いましたがそうではなく、同意見の心あるサイレントマジョリティは存在します。
入社がかなってからで結構ですので、真剣にお考えいただけると幸いです。

2の「自由化」は次回のテーマとさせていただきます。

分社化
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。