電力自由化の光と影。参入の決断は、拙速より熟慮だったのでは。

事業失敗 自由化ビジネス
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自由化の経緯。

電力自由化はもちろん今に始まったことではありません。
世界的な規制緩和の流れの中で、全ての業界の高コスト構造や競争力向上を目指すべしという風潮が電力業界に対しても例外ではありませんでした。

その後、1990年台から幾度となく業界のバイブルである電気事業法が改正され、ついに「電気事業については2001年までに国際的に遜色のないコストを目指す。」(経済構造の変革と創造のための行動計画)という掛け声の元、2000年3月に小売り自由化がスタートしました。

まず最初に、大規模工場やオフィスビルなどの「特別高圧」の需要家から電力会社を選択できるようになりました。
2004年4月と2005年4月に「高圧」に拡大。
最後に2016年4月の「低圧」、すなわち家庭や店舗用電気までが自由化いたしました。
「自由化」というのはさまざまな業態の参入障壁が撤廃される代わりに、既存電力事業者の電力供給義務も撤廃されることになります。
さらに当たり前のことですが、電気料金も自由に設定できることのなります。
ユニバーサル・サービスといいますが、「隣の一軒家」のような面倒臭い、儲からない家庭には供給を拒否することもできます。
そのため、2020年までは従来の料金プランや認可制度は激変緩和措置となりましたが、期間満了後もそのままの状態となっています。

これがこれまでの経緯です。
そんな日本が得意の、ゆっくりとした変革の最中、東日本大震災、福島事故が起きてしまったということです。

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福島事故で激変した電力制度。

福島事故により事態は急変しました。
日本の電力の半分を安定的に供給していた原子力への期待が一挙に「0」となりました。
いますぐ何か考えないと、日本のエネルギーは破綻します。
「電気の小売りと発電の全面自由化」。
段階的自由化により、一般家庭の電力選択の実現と競争を通じて電気料金の最大限の抑制。
が突然、喫緊の課題となりました。
※電力システム改革の果実が「送配電分離」。こんなんでいいのですか。

慌てて制度化されたのが、再生可能エネルギーによる電気の「固定価格買取制度」です。

「固定価格買取制度」考察。

火事場泥棒。

福島第一発電所事故当時、いろいろな人がいろいろな発言をされました。
国会議員、自治体、初めてテレビで見る専門家や学者、マスコミに煽られたコメンテーター、そう称する芸能人。
どこかの信用金庫の理事長とかもおられました。

最も印象に残っているのは、ある実業家と呼ばれる方が時の与党議員を煽って「太陽光発電」の有用性を説いている姿でした。
あの無茶苦茶な「固定価格買取制度」はあそこが震源地ではないかと今でも疑っています。
私には、福島事故のどさくさで、自分だけが儲けた「火事場泥棒」のように見えます。

「固定価格買取制度」の馬鹿馬鹿しさ。

日本の放棄農地は20万ヘクタールあり、山間遊休地と合わせれば原子力などなくてもやっていける。
そのため、法外な42円/kwhで一定期間電力会社が買い取ることを義務付ける、という「固定価格買取制度」をスタートさせるべきということです。
42円/kwhなどという負担を電力会社にできるはずもなく、救済のための「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」という形でユーザーに負担を押し付けるものとなっております。
おそらくほとんどのお客様がこの事実を知らずに電気代を払い続けておられると思います。

ただこの「固定価格買取制度」による買取単価も下がり続け、2022年度の調達価格は、大規模太陽光で10〜11円/kwh、小規模で17円/kwhとなっています。
出典:資源エネルギー庁「固定価格買取制度」

縮小傾向となることは、国民感情から考えても当然のことと思えます。
また、本年で電力会社が固定価格で買い取る制度(FI T)そのものが終了し、卸電力取引所で取引するか、電気事業者との直接取引する制度(FI P)に移行いたしました。
これも当然の流れです。
FI Pの解説は長くなるのでやめますが、ようやく色々な意味でバランスを取るための制度に変更されようとしています。

新規参入者の現状。

今もインターネットで検索すれば、「放棄・遊休農地買い取ります」という太陽光ビジネス業者にヒットしますが、実態はどうなのでしょうか。

一昨年の想定外の「厳冬」により、電力の卸価格が高騰し新電力がバタバタと倒れているという報道を耳にしました。
報道はなかなかされませんが、JEPX(電力取引所)で扱われる単価は、スタート当時の2016年、8.5円/kwhだったものが、26円/kwhと3倍になっています。

また、2022年6月までの1年間で、新電力は、倒産19件、事業停止16件、新規申込停止69件ということです。
特に「市場価格連動型」の契約を結ばれていた方は、突然の値上げ通知に驚かれたことでしょう。
きっと契約書にはお決まりの、老眼では見えないような字で条件が書かれていたのでしょう。
「市場価格連動型」の契約でない場合は、この値上げ幅を新電力会社が吸収せざるを得ないわけで、たまったモンではありません。

ちょっと考えればわかったはずです。

  • JEPX(電力取引所)が満足に機能していないところに、福島事故による原子力の全停止です。
    どんな取引も商品がなければ成立しません。
    発電設備を持たない小売事業者は代理店(アグリゲーターというらしいです)みたいなものです。
    商品がなくなるかもしれないという取り引きです。
    どっかの誰かが大儲けしたからといって、リスキーにすぎると思います。
  • さらにリスキーなのは、電気は気候や国際情勢の影響をもろにかぶる商品です。
    先程説明した、気象条件による電力需給の逼迫は今後も続きますし、エネルギーが武器化しているロシアのウクライナ侵攻も長期化するかもしれないということです。
  • また太陽光発電自体の問題も多いようです。
    最近社会問題化しているのが太陽光発電設置のための環境破壊、盛り土の問題です。
    保水力を失った山林の破壊力は熱海の土石流でみんな思い知ったことでしょう。
    あと、太陽光発電設備の廃棄物化の問題もあります。
    温暖化対策のための設備で環境破壊。
    笑い話にもなりません。

結論としては「様子見」だと思います

今後につきまして。

今回は「電力自由化」というカテゴリーで、新しいビジネスモデルとして多くの方が注目しておられる太陽光発電を例に記事にさせていただきました。
このカテゴリーでは、今後も電力自由化によるビシネスモデルを記事にしたいと思っています。
そのため「別メニュー」とさせていただきました。
「就活生のため」という趣旨とは反しますがご容赦を。
太陽光発電の記事詳細は、改めて「再生可能エネルギー」のカテゴリーで発信させていただきます。
面白いことを考えるつもりです。

自由化ビジネス
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。