電力会社を変える4つの環境変化。
前にお伝えしましたが、電力会社の現在の10社体制が発足したのは、今から70年前の1951年。
焼け野原になった日本の戦後復興から、高度経済成長の推進エンジンとして機能し、日本をGDP世界2位まで押し上げました。
このことは私たち古い電力マンにとっては、苦しい時代であり、自慢であり、花の時代であったと思っています。
当時は「電気事業法」の総括原価主義により会社や社員は守られ、生活を何も気にせず仕事に取り組めた時代でもありました。
これを皆様は「安定」とおっしゃるのでしょう。
しかしそれは今は昔の夢。
電力会社の変革圧力は強く、世の中からは「独占権益に胡座をかいている」とか「なんの苦労もしていない」とか揶揄され、経産省もついに「電力システム改革」を打ち出しました。
当初「電力システム改革」のスキームを聞いていると、今の10電力体制を潰すつもりなのかとも感じましたが結果としては中途半端な形で着地しています。
実は私自身、引退後は現役当時と考え方が異なり、徹底した「電力システム改革」が絶対に必要、という思いを強くしておりますが、そのことにつきましてはいつか当ブログで書かせていただきたいと思っています。
就活生諸氏にここでご理解いただきたいのは、ほとんどの社員が昔のままぬくぬくと日常を送り、最後には会社生活を無事終えたいと思っている中で、変わらざるを得ない外部からの変革圧力に押しつぶされそうになっていることです。
特に、「電力会社は安定していて楽」とお考えの方に熟読いただきたいと思っています。
4つの環境変化は時系列でお伝えいたします。
電力全面自由化
2000年に「大口」、2004年「特別高圧」、2005年「高圧」、2016年に家庭用電力までの全面自由化が導入されました。
これまで地域独占であった電力販売に突如ライバルが現れました。
ガス、鉄鋼、石油、商社等さまざまな業種からの新規参入が相次いでいます。
また電力市場に頼る小規模な会社や、小水力を持つ地方自治体など多種多様な新電力会社が誕生しています。
市場シェアはまだまだ20%前後ですが、既存電力会社も戦略を大転換させる必要があるように思えます。
新電力の現状につきましては、電力不足の中でもがき苦しんでいる会社も多く、その問題点と現状について、別のカテゴリーで書かせていただきます。
小電力の現状は別にして、この時点でこれまでの大手電力会社は「地域独占の安定企業」ではなくなっています。
再生可能エネルギー
2015年、世界は紆余曲折の末、パリで開催されたCOP21でようやく地球温暖化対策が着地いたしました。
温室効果ガス排出規制に大きく影響を被るのも発電事業です。
これも改めて別のカテゴリーに記載いたしますが「再生可能エネルギー」が、どう主要電源になりうるのか、大疑問を持っております。
本来、そのためのエース電源は原子力のはずでした。
原子力は評判が悪い。
そのうち化石燃料である石油・石炭は使えなくなる。
LNGも微妙。
そこで脚光を浴びたのが「再生可能エネルギー」です。
先の「第6次エネルギー基本計画」でも再生可能エネルギーを「主要電源」として位置づけています。
再生可能エネルギーの議論は多く行われていますが、「なんとなくいい感じ」的な議論ばかりが目立ちます。
「いつ、誰が、どこで、いくらかけて」という具体的な議論は全くないように思えます。
私自身、再生可能エネルギーでこれからのエネルギーを賄えるなどとは全く考えていません。
更に、再生可能エネルギーでの電力量が増加した場合「電圧・周波数・安定供給」といった電気の品質は、いったい誰が責任を負うのか。系統連携のコストは誰が負担するのか。海上風力発電での発電電力をどうやって陸まで持ってくるのかなど想像もつきません。海底ケーブルをどれだけ敷設すれば良いのでしょうか。
責任やコストを大手電力会社に押し付けられることになるのではないのかと懸念します。
ここで気付かれましたでしょうか。
大手電力会社の大手である所以は大容量発電所を所有しているというアドバンテージです。原子力がどうなるかわからない。
化石燃料は使用できない、となると僅かな発電設備を持つ単なる「新電力」にレベルダウンするということです。
昔で言うPPS(特定規模電気事業者)ということになります。
更に電力の品質保証や再生可能エネルギーの基本コスト負担まで求められるとしたら経営の根幹を揺るがす事態であると言わざるを得ません。このあたりの推移は是非ウオッチしておくべきと考えます。
至近のトピックスとして、関西電力が宮城県の蔵王山で大規模風力発電事業を計画し、地元から反対の嵐に晒されている件について触れておきます。
誰もが思うとところです。
現状、関西ではガス他の競争相手が強く、思ったように電気が売れません。
加えて、関西電力は元々原子力比率が高く、安全対策等に他電力以上の費用がかかります。
じゃあ関東に進出しよう。ところが周波数の壁があり大規模な発電所建設は無理。
なら関東に発電所を作ってしまおう。差し支えないのはみんな反対しない再生可能エネルギーだろうという発想です。
ところが地元は、景観保護をタテに環境影響評価(アセスメント)さえ拒否する勢いです。
この事案の一番の問題はここだと思います。
環境対策として打ち出された「再生可能エネルギー」でさえ立地には大きな困難を伴うという点です。
他だったらいいけど自分のところは困る。やっぱり発電所は嫌悪施設だったということです。
福島第一原発事故
2011年3月11日、東日本大震災発災。
凄まじい出来事でしたが、電力会社にとってはその後の津波による福島第一発電所の全電源喪失事故は、震災以上のインパクトでありました。
特に水素爆発の映像が放送された際には「あっ、これで原子力は終わった」と天を見上げた記憶があります。
原子力は終わるのかどうか。
どこにも明確な議論がありません。
国が発表した「第6次エネルギー基本計画」でも、福島第一原発事故の真摯な反省ばかりで、将来原子力をどうするのかについては、電源構成比率20~22%という表記以外何もありません。
ただ一点明確になったのは、あのような大規模な原子力災害が起きると、電力会社といえども一民間会社で処理しきれないことです。国またはそれに準じる組織での運営が必須であることを露呈したと思えます。
電力会社側から見ると、原子力事業が奪われることになり、現状の体制維持は難しくなることは間違いありません。
前に述べました通り、中途半端でない「電力システム改革」に直結するほどのエポックです。原子力を奪われることは、電力会社にとっては、致命傷になるほどの出来事です。原子力についてはもちろん別カテゴリーで徹底的に議論したいと考えております。
分社化
2020年から送配電部門の法的分離が成立いたしました。
大手電力会社の「発電部門」「送配電部門」「小売部門」のうち、発電・小売部門は自由化できるが、送配電部門だけは広域系統運用の拡大と公平性の観点から中立性を保つ必要があるため今回の措置となったものです。
ただ実態は、大手電力会社の子会社化であったり、持ち株会社方式であったりします。
経産省の意図する「電力システム改革」とは程遠いような気がします。
何度も登場するキーワードですが、「電力システム改革」を意識していただきたいと思います。
分社化は中途半端なものでしたが、原子力、温暖化対策、再生可能エネルギーの今後の推移や、自由化により参入してきた企業のイノベーションやビジネスモデルによっては、業界全体のスキームが大きく変わる可能性があります。
おそらく今の就活生諸氏が入社される電力会社の形態は、退職される頃には全く違うものになっているような気がします。
良いようにか悪いようにかはみなさん次第です。自覚が必要です。
国や役所が意図するのではなく、時代の必然で「電力システム改革」が始まる可能性があると思いますし、そうあるべきと考えております。
ただし、今回の法的分離は電力会社の意向で骨抜きになったという側面もありますので、就活の公的な場面での発言には細心の注意だ必要です。
ここまでで電力会社に対するイメージは少しでも変化しましたでしょうか。