電力会社、辞めたいです。原子力工学卒の女性から相談が来ました。

原子力女性運転員 就職・転職
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見てくれてる人が少ないから当たり前ですか。
そうですよね。
ところが「電力会社を辞めて違う道に進みたいと思うのだけど意見を」というご相談だけは3件もいただきました。
うちお二人は匿名で電力会社と地域を秘密にするという条件で記事にする了解をいただきました。
ありがたいです。

まずお一人目は「女性」。
地方トップの国立大学の原子力工学科を大学院まで卒業され、自分の地元ではない電力会社に入社されました。
入社3年目で、原子力発電所の運転チームに配属されました。
「運転チーム」はご想像の通り直勤務で、365日24時間体制ですので、当然徹夜勤務を含めたシフト勤務となります。
そのこと自体はご自身のキャリアパスとして必要と考え、自分で希望されたそうです。
会社側も、1985年の男女雇用均等法以降、性差関係なく配属を考えるようになり、今や何人もの女性運転員が現場で活躍しておられるようです。

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少しPRですが、私が書いた小説と同じ設定です。

何年か前に小説「電力会社の憂鬱(上下)を電子出版いたしました。
 ※「電力会社の憂鬱(上)ー魑魅魍魎たちの蠢きー
 ※「電力会社の憂鬱(下)ーピンクのトカゲー

件の女性新入社員が原子力現場の不満をぶちまけるシーンは上編に登場します。
引用します。

一週間ほど前の出来事である。
運転課長と女性社員が海野の部屋を訪ねてきた。
男女雇用機会均等法以降、西日本電力でも、女性技術者を採用し、三交代勤務に起用しているが、問題はアフターファイブである。
寮での飲み会には半強制的に声が掛かり、中で一番偉い社員の横に座らされる。
「周りからは、あの人の機嫌を損ねないように。」と。
「まるでホステスです。」涙ながらの訴えである。
「たまになら良いんですが、こんなのが毎日続くと耐えられません。
何しに西日本電力に入ったのか、なんで大学で原子力を勉強してきたのか・・・。わけがわかりません。次長には申し訳ありませんが、辞めさせていただいて、もう一度大学に戻りたいと思います。」
今年に入って3人目である。

これはもちろんフィクションで、私の想像です。
原子力発電所現場で働く幹部がいかに肉体的、精神的に激務かということを表現したく書いた文章です。
ご相談いただいた女性は、少し違いますがよく似た状況であったようです。

彼女の悩み。
よく伺うと2点です。

職場環境

運転業務と女性社員。
総務・労務系社員の腕の見せ所ではないでしょうか。
割と簡単。
と思っていたら、もっと根が深い悩みでした。
寮での男女のエリア分け、トイレ・更衣室、会社の対応は完璧で、シャワー室だけでなく、パウダールーム、驚いたのは授乳室まであったそうです(やりすぎやろ)。
小説に書いたような、宴会への強制参加なども全くないそうです。
論点は違いました。

原子力発電所には放射線管理区域というエリアが必ずあります。
読んで字の如く、一般地域より燃料他、汚染機器に近寄る共に放射線量が高くなります。
そのためエリア入域の際には、汚染物質の量をできるだけ減容するため、裸に近い格好になり、地肌の上に防護服を着用します。いわゆる「パンイチ」です。
このエリアにも女性用更衣室は用意されているようですが、そこにいるのは社員だけでありません。
下請け業者や、どこの誰かさっぱりわからない方々も大勢おられるとのことです。
彼らに何かされたということではなく、単に下着だけで周りをうろうろして、目のやり場に。。ということです。
思い出しました。
私も経験済みですが、放射線管理区域には線量モニターという関門があり、脱衣→モニター→防護服着用、という流れでした。
朝の混雑時などは、どこのおっさんかわからん人たちが、ずらっとモニター前に裸で並んでいます。
これは気になるでしょう。
しかも女性がそこに並ぶ。
本当に今でもそんな運用なのでしょうか。
これは電力会社にお聞きしたいと思います。
原子力発電所は元々典型的な男社会、その名残でしょう。

人間関係

寮の飲み会に強制的に参加させられたり、ホステス代わりにお酌、とか言うのはないということでした。
やっぱ小説とは違いますね。
事実はそうではなく、誘いたくないというよりも誘うのが怖いという感じらしいです。
将来、女性幹部になるかもしれないし、変な言い方をすれば、セクハラ・パワハラ、いつチクられるかわからない。
「君子危うきに近寄らず」ということらしいです。
実際に彼女は、

  • 誘ってもどうせ来ないし、来たら気を使うし。
  • 将来の幹部やから俺のこと覚えといてね。
  • 女なんて、手がかかって邪魔。
  • なんで、原子力なんてやろうと思ったの。文学部とかでよかったのに。

とか陰口が耳に入ったことがあったそうです。

確かに電力会社だけとは言いませんが、大企業では女性役員の輩出が目的化されているように思えます。
内閣改造の際に、派閥別だけではなく女性閣僚の数を報道するマスコミと似ています。
愚の骨頂です。
優秀な人を選んだら、たまたま女性だった。
それがジェンダーフリーでしょう。
彼女は会社で自分の居場所を見つけて頑張りたいとは言っていましたが、今の会社の雰囲気は違うと感じているようです。

次々愚痴は出ます。

いろいろ聞いてみるとまだありました。

  • 福島事故以降、一度も稼働していないプラントの担当でやりがいがない。
  • わかってはいたけど、いなか勤務はいや。しかも下手すりゃ定年まで。

結局全部ですよね。

でも驚くべきはここからです。

今は研修期間ですから「石の上にも3年」もうしばらく我慢したら。
社内で原子力現場以外の研究職とか出向とか可能性を探ったら。
とか助言もしました。
でも決意は固いというか「辞める」ことは避けられないと思い至っているようでした。

まずこのまま自分がいると、さまざまな人に迷惑がかかると考えておられるようです。
女性が働く環境整備をお考えいただいているのは痛いほどわかるが、それがかえって負担。
どうやっても「原子力現場は男性職場」。
私の大学の専攻は「炉心管理」。
今は「運転業務』ですが次は必ず、その仕事になると思う。
原子力の軸になる仕事で専門職。
そのプライドはありますが、その分つぶしが効きません。

地元に帰って、JRに再度挑戦します。

え!JR?
大学に戻って研究者とかではなくて?
これまでの6年間の勉強とか、入試の勉強とかも無駄にして?

電力会社もそうですが、インフラ系企業に自分なりの価値を感じているそうです。
だからと言って、電力会社に無理があると思ったら、JR!
私には本当は「新電力」のことを聞きたかったようです。
それはまた特集します。
と答えるのが精一杯で、二の句がつげませんでした。

みなさんどう思います。
彼女ならやってのけるような気がします。
でも電力業界としては、ひとつの才能を失ったような気がしています。
これが今の若者ですか。
大胆です。

次回はもうお一方。

就職・転職
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。