西村新経済産業大臣の就任記者会見をテーマにするつもりでした。
参照:日経新聞、原発「来夏以降さらなる再稼働が重要」西村経産相
この会見での原子力についてのスタンスは、これまでの政府方針より、一歩も二歩も踏み込んだものでありました。
今回の政府のスタンスは私の記事でもご紹介いたしましたが、これまでの原子力規制委員会の審査状況をいかにも新しい判断のように発表したもので、なんの新味のないものでした。
参照:原発再稼働の方針が決定?でも政府のエネルギー対策に疑義あり。
中でも「予想される今冬の電力ひっ迫に備え、9基の原子力発電所を再稼働させる」という首相のドヤ顔には本当にがっかりいたしました。
これまでの情報から何も進化はありませんでした。
西村大臣の発言は、それだけにとどまらず、一連の東京電力の企業体質に一刺ししながらも、安全審査を通過しても自治体の同意を得られない、といった理由で再稼働に至っていない7基や、審査で合格していない原発も稼働させる必要があるとの認識を示されました。
大臣の懸念は確かで、※電力会社の企業体質は何も変わっていないようです。
根深い問題です。自治体もなかなか首を縦には触れないでしょう。
このことが致命傷になるのでは、と思えるくらいです。
また、新増設は「想定していない」と従来の政府方針を引き継いだ慎重な言い回しながら小型モジュール炉(SMR)などの次世代の原子力発電所のあり方についても言及されました。
「研究開発、人材育成、原子力サプライチェーンの維持強化など、将来を見据えた取り組みも進めたい」ということでした。
前回の政府発表は、ぼやっと聞いていると新しい政策を打ち出されたような気分がし、今までと何も変わらないと気づいた瞬間に騙された感満載となりましたので、穴が開くほど西村大臣の発言をチェックしました。
間違いなく今回は今後のエネルギ危機を乗り切るため、かなり踏み込んだ発言をしておられます。
福島事故以降、初めての踏み込んだ発言であり、もっと詳しく意見を書き、場合によっては皆様のコメントをいただきいと思っておりました。
西村会見はただの観測気球。
しかしその2日後、岸田首相はさらに踏み込んだ決定的な発表を行われました。
西村大臣の発言はただの観測気球だったのでしょうか。
参照:政府、次世代原発の建設検討 エネルギー政策方針転換
岸田首相、原発の新増設の検討を指示 正式決定なら国策の大転換
- 前回発表した9基に加え、来年の夏以降に規制委員会の審査に合格している7基の再稼働を目指す。
そのために「国が前面に立つ」。 - 60年(40年+20年)という原発の運転継続ルールを見直す。
- モジュール炉(SMR)などの次世代革新炉の開発・建設など政治判断を必要とする方策については、年末までに具体的な結論を出す。
- 9基は既報の通り、関西電力大飯3・4号機、美浜3号機、高浜3・4号機(以上、福井県)、四国電力伊方3号機(愛媛県)、九州電力川内1、2号機(鹿児島県)、同玄海3号機(佐賀県)です。
7基は、関西電力高浜1、2号機(福井県)、東北電力女川2号機(宮城県)、中国電力島根2号機(松江市)、東京電力柏崎刈羽6、7号機(新潟県)、日本原子力発電東海第二(茨城県)です。 - 「原発の運転継続ルール」は、40年経過した原発は基本廃炉。
ただし規制委員会の更なる審査に合格したプラントについては、20年に限り運転継続を認めると言うものです。 - 「小型モジュール炉」は、第6次エネルギー基本計画で初めてキーワードとして記載されているもので、当ブログの記事でも改めて記事にいたします。
本政策のバックグランド
どのようなバックグランドがあるのか。
私見ですが書いてみたいと思います。
就活生の皆さまも是非ご自身でお考えください。
これまで日本は何を学んできたか。
これまでと言うのは近年という意味ではなく、戦後〜くらいのスパンです。
これまでの政治政策には明確さとわかりやすいキャッチフレーズがありました。
例えば「戦後復興から高度経済成長へ」「所得倍増政策」「日本列島改造論」などです。
戦争でボロボロになった日本を立ち直させる。
金持ちとは言わずとも、家族を養えるくらいの収入を。
狭い日本を効率的に使える工夫がいる。などなど。
わかりやすさの極みでした。
その屋台骨を支えるエネルギー・電力を任される会社は立ち止まる事を許されないような「国民的合意」とそんなムードがあったように思います。
そんな中から何とか見出した原子力開発という選択肢でありました。
明確な政策とわかりやすいキャッチフレーズ。
とにかくひたすら前に進もうとする活力というかパワーがありました。
結果、日本は戦後の焼け野原から立ち上がりました。
経済を止める力。
そして11年前には誰も予想できなかった、東日本大震災が発災し、福島第一発電所事故により世界の原子力政策に大きな影響を与えました。世界の原子力を停滞させた日本の責任は大きかったと思います。
さらにコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻。
ここ何年かの短期間に我々は何を学んだのでしょうか。
これも完全に私見ですが、2点あると思っています。
普通の生活や経済にとって、最低限必要なものは、食料とエネルギーです。
「水」がなかったら我々は命を保てませんが、それに準じるものです。
どこか知らない遠いところで戦争が起きただけで、エネルギー小国である日本では、頭でわかっている以上に、これらを確保することが難しいことを知りました。
さらにコロナ禍と熱中症で経験した健康確保の重要性。
激甚化する自然災害対策に予算をかけてこなかった愚かさ。
この半年間、日本が学んだことは、経済成長一辺倒の政策ではなく、こう言ったことを重要視する経済政策に転換すべきということだと思います。
さらに感じたことは世界の身勝手さです。
いつの間にかEUは強かに原子力やLNGをグリーンエネルギーに位置付けています。
LNGの最大輸入先であるオーストラリアも自国のために輸出制限を行うという報道もありました。
かく言う我が国もサハリン2を、今や敵国であるロシアに頭を下げて続けざるを得ない自己矛盾と馬鹿馬鹿しさを抱え込むことになりました。
日本で自国民を守るためには、原子力しかないと思っています。
言い過ぎですか?
そう思われる方はご一報を。
「LNG」も石炭の50%、石油の70%のCO2を排出しますが、ギリギリセーフ、でも趣旨から言ったらダメでしょう。
もちろん原子力は問題外。
頼れるのは「再生可能エネルギー」のみ。
「再生可能エネルギー」を経済成長エンジンに。
こんな話、昔々にやってたような気がしますね。
今度また「食料、エネルギー、水」が確保できて、戦争が終わったら再開すれば良いのでしょうか。
今回の決断は大英断だと理解しております。
驚いた点、気になる点を含めてお知らせいたします。
岸田総理であることの驚き
というコメントであったと記憶しております。
さすが自民党リベラル派で広島県ご出身と思いました。
したがって、保守本流の西村大臣の去就に注目しました。
よく考えたら、一大臣の意向だけでパブリック・ステイトメントを出せるわけがないですよね。
GXでの表明
実行会議は温室効果ガスの排出源である化石燃料や電力の使用を脱炭素エネルギーに切り替えることを、企業ミッションとして取り組むよう迫るもので、まさにゼロエミッションとしての「再生可能エネルギー」と同様に「原子力」を位置付けるものであるという意味があります。
ムード
エネルギー問題に関しても、福島の被害者の方々は大変であることは感じつつも、もう原子力の活用以外に手はないのではないかと感じておられるように思います。
そんなムードを政府も敏感に感じておられるのではないでしょうか。
気になる点
PWPとBWRに関しては本記事でも解説させていただいています。
参照:電力会社就活での原子力に関する質問のベストアンサーを考えます。
前にも申し上げましたが経済産業省と原子力規制委員会はある意味「利害相反」です。
反応が気になるところですが、規制委員会の委員長も会見で、審査の進め方を議論すべしとの発言をしておられます。
参照:原子力規制委 更田委員長 原発再稼働の審査の進め方を議論へ
最後に就活生の皆さまへ
今回の件、私が原子力発電所勤務が長かったから申し上げているわけでなく、本当のところ驚きました。
まだまだ国会議員、官僚レベルの動きであり、今後意見を違にする方々、地方・地元自治体など様々な利害関係者が登場します。
しかし電力会社のこれからの考え方、動きというものは変わってくるのは明らかで、技術・事務系にかかわらず、ご自身の原子力に対する考え方を整理する必要があります。
電力会社は、10年以内の先輩方が体験しておられないフェーズに突入する可能性が高いわけです。
何か疑問点があれば、問い合わせフォームより是非お送りください。
最近、会社を辞めたいとか、人生相談みたいな問い合わせが多いもので、エネルギーについて議論をしたいです。