電力会社就活での原子力に関する質問。この時期、答えは難しいですね。

悩む女性 原子力
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いま面接で、原子力について聞かれると、どう答えます?

「電力会社と原子力」。
日本の10電力会社のうち、9つの会社が保有する設備であるにもかかわらず、福島第一発電所事故により、その立ち位置は一変いたしました。
脱炭素やエネルギーセキュリティー、電力ピーク対策、どの観点からもその優位性を認識しているにもかかわらず、禁忌のように誰も議論というか触れようともしません。
ただ電力会社就職希望の方はそういうわけにはいきません。
面接、筆記試験とも「原子力発電」に関する質問を受ける可能性は非常に高く、自分本意でも結構ですので定見を持っていなければなりません。

政府の公式見解は「世界一厳しい原子力規制委員会の審査をクリアしたプラントから順次再稼働」というものでありますが、皆さんならどうお答えになるでしょうか?

私が入社した時代のような高度経済成長の真っ只中なら「経済成長エンジンとして、低コストで大容量の発電が可能な原子力開発を推し進めるのが電力会社の責務」という簡単明快で当たり前の答えしかなかったと思えますが、現在ではどう答えると面接官は「なるほど」という反応をしてくれるのでしょうか。

難しいですね。
どう答えてもツッコミどころ満載という感じです。
とはいえ就活生としては何か答えざるを得ません。
何回かの記事に分けて解説したいと思います。
定見を持つためには、技術的課題と政策的課題の議論の両方を知る必要があります。

とりあえず技術的課題を考えます。

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福島第一原発で何が起きたのか。

いろいろと考える前に、そもそも福島第一発電所で何が起きたか正確にご存知でしょうか。
ほとんどの電力会社が何十年間も労力やコストをかけてきた発電方式が水泡に帰した出来事です。
正確に知るべきです。

2011年3月11日に発生した東日本大震災。それに伴う未曾有の津波。

一般の方はかって経験したことのない地震と津波が原子力発電所に襲いかかり、原子炉格納容器が爆発し大量の放射能をばら撒いた。という印象でしょう。
正しいです。
でも電力会社の就活生なら、もう少し詳しくお知りいただきたいと思います。

東京電力福島第一原子力発電所は、想定をはるかに上回る15.5メートルの津波の襲来を受け、海抜10メートルの敷地が浸水いたしました。
非常用の発電機など全ての電源が水没し電源が喪失。
結果、原子炉を冷やす機能を失いました。
「電気を大量に生み出すはずの発電所が電源を喪失し大事故に」ここらあたりが違和感ではないでしょうか。

原子力発電所は発電するだけでなく、運転中・使用済みにかかわらず、ウラン燃料を適正に管理することが大きな役割です。
そのため常に冷却水を循環させ、温度管理をおこないます。
そのことが放射能の管理にもつながり、燃料の暴走を防止することになります。

福島第一発電所も当然ながら、他発電所からの別系統での受電や非常用発設備など、循環水ポンプの電源を得るための設備は準備されていましたが、地震による設備棄損や、津波による水没により、全く使い物にならなくなりました。

映画「Fukushima 50」に描かれていますが、従業員の私物の車載バッテリーまで集めようとしたくらいの出来事です。
最終的には燃料の温度上昇が限界を超え、燃料集合体の被覆管に含まれるジルコニウムと冷却水が反応し、頑丈な建屋が吹き飛ばされる水素爆発が相次ぎ、大気中に放射性物質が飛散してしまいました。

この10年は、地元の除染、復興、中間貯蔵、処理水の海洋放出、風評対策、そして廃炉と決して前向きな話はなく、原子力規制委員会や世論からの厳しい声しか聞こえて来ず、下を向き、唇を噛みしめながら耐え続けるしかなかったという感じです。

福島第一原発事故以降、全く議論されなかった大きなポイントは2点あります。
今回は、1点目の「原子炉の型式」についてお話しいたします。

日本で採用する原子炉の型式。

まず、ややこしい話をします。
あ〜、そんなこと書いてあったな、という程度で結構です。
原子炉は開発段階により、実験炉→原型炉→実証炉→実用炉→商業炉と進みます。
「核融合」は実験炉、どこかで聞かれたことのあるプルトニウムを活用する高速増殖炉「もんじゅ」は実証炉という具合に、段階ごとに進む研究開発ですが、いずれもハードルは高く、現段階で商業炉として発電可能なのは「軽水炉」のみということになっています。

軽水炉の型式

日本で稼働している原子力発電方式は大きく分けて、加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)の2種類があります。

加圧水型軽水炉は蒸気発生器という熱交換器を介して別系統の冷却水に熱を伝えて蒸気を作るため、放射性廃棄物を減容することができます。
ただ、蒸気発生器が常に高温高圧環境にさらされるため、過去にその健全性を損なわれる事象が相次ぎ、加圧水型軽水炉の採用会社は蒸気発生器の全数取り替えまで追い込まれてしまいました。
(ここの経緯を小説「電力会社の憂鬱」のテーマにしています。「出版」タグでチェックお願いします)。

福島第一原子力発電所で採用されていたのは沸騰水型軽水炉。
原子炉で生み出された蒸気を直接タービンに吹きかけるため、必然的に放射線管理区域が広くなり、発電機器の多くが汚染された放射性廃棄物を大量に生み出します。

両タイプともそれぞれ一長一短です。

ただ福島事故が少し落ち着いてからのことですが、技術者の間で、今回の事故のシーケンスに関しては、加圧水型軽水炉ならこの蒸気発生器を冷却装置がわりに使用することができ、炉心溶融を防げたとまでは言えないが、結果は同じだとしても、もう少し時間的余裕があったのではないかという意見もありました。

加圧水型軽水炉は元々米国の原子力潜水艦に使用されていた技術であり、狭い空間の中で、いかに安全性を保つかに腐心されたもので、沸騰水型軽水炉はそれを陸上用に開発されたものであります。

事実、現在原子力規制委員会により再稼働が認められたプラントは、40年超のものも含めて全て加圧水型軽水炉です。
私個人的には、加圧水型軽水炉の安全性能の優位さは明らかと思っており、沸騰水型軽水炉は廃炉に向かわざるを得ないのではないかと思っていました。

島根県知事の決断。

6月2日、島根県の丸山知事が同県の中国電力島根原子力発電所2号機の再稼働に「現状においてはやむを得ない」というコメントとともに同意表明されました。

島根2号機は福島第一と同様、沸騰水型軽水炉(BWR)です。
詳細が分からないのでなんとも言えませんが「現下の経済状況や、世界情勢を鑑みて、原子力の再稼働以外に経済危機を乗り切る手立てが考えられない」とのご判断でしょうか。
「そういう国の方針に協力する、あるいは国が何も方針を示さないので自治体から動く。」ということでしょうか。
あるいは「自治体の大きな責任である有事の際の避難計画(瀬戸内も含めた広域避難)が決まったので、後は振興計画。
そこのところよろしく。」という意図でしょうか。

マスコミは「日本で最初の県庁所在地に立地する原発」と騒いでいますが意味不明です。
むしろ「初の沸騰水型軽水炉(BWR)」という価値の方がはるかに高いと思います。
「日本最初」とか「これまでで最大」とかが大好きなマスコミとしては、これを見逃すのは大失態です。

これまで電力業界は、BWR採用会社の行く末に配慮してか、全く議論になったことはありませんでした。
丸山島根県知事の覚悟あるご英断であると感じました。

次回もう1点の技術的課題、「原子力の性能」に触れます。

原子力
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。