このサイトも開設から2年を経過し、さまざまお問い合わせをいただきました。ご本人の了解を得るのに苦労していましたが、少しづつ蓄積したQ&Aをご紹介したいと考えています。
ご紹介するQ&Aは、できるだけ皆様方に普遍的に参考にしていただけるものに絞らせていただきます。
まずは「原子力部門」に関するご質問です。
電気工学専攻です。大手電力を目指していますが、原子力よりも再生可能エネルギーを推進すべきと考えています。自分の思いを面接で話していいでしょうか?
どういう目的で面接に臨まれるのでしょうか。
ご自身のエネルギーに関する考え方を面接の場を利用して開陳したいということでしょうか。
他の就活生と同様に、大手電力に入社を目指しておられるのでしょうか。
前社なら「お好きにどうぞ」。
後者なら「絶対にやめるべき」。
が答えです。
解説します。
新規参入会社の一部には「再生可能エネルギーで産生した電力供給」を売り物にする会社があります。
それなら別ですが、相談者は「大手電力会社」を目指すということですので、もう一度言います。
「絶対にやめるべき」です。
電力会社は「再生可能エネルギー」をどう見ているか。
政府が「エネルギー基本計画」を3年ごとに策定します。現行は第6次です。
余談ですが、電力会社を目指す方はこの内容を空で言えるくらいになるべきです。
中でも、再生可能エネルギーの比率は22~24%、2030年には36~38%と見込んでいます。「再生可能エネルギー」を含めたあらゆる発電方式で、ベストミックスを模索するということです。
公式には。。。
再生可能エネルギーは地球温暖化に有効なクリーンエネルギーで「夢の電源」とマスコミやリベラル志向の方にはもてはやされます。
でも経産省や電力会社の中に、本当に「再生可能エネルギー」が膨大な電力需要を賄う枢要電源になるとお考えの方がどれほどおられるでしょうか。
ほとんど或いは全くいないのではないでしょうか。
というか、むしろ厄介者。
言い過ぎました。ゴメンナサイ。
でも少なくとも電力会社内の雰囲気はこんな感じです。誰も口にしませんが。
電気の品質を担保しながら安価で大量の電力供給を求められる大手電力にとって、ミッション達成のためには原子力しかないというのが基本スタンスです。
原子力の課題もご承知の通りですが、SMRなどのように人知で工夫しながら推進すべきということです。
就活は売り手市場というものの、多くの就活生が殺到する電力会社で「こんなややこしいことを言う奴をわざわざ採用する必要はない」となることは間違いありません。
このご質問には自分の思いを面接で面接官にぶつけて良いか、という以上に重要な要素を含んでいます。入社してから会社を辞めるべきかどうかという悩みに直結する問題です。
ご参考いただきたいのは、同じような話で転職した筆者の同期入社の話です。
有料コンテンツの一部なので、ポイントだけピックアップします。
担当は古くから引きずられている「公害訴訟」です。
東北の杜の都にある、光り輝く国立大学の法学部出身で司法試験までパスしていました。
超優秀です。
当時は今のように、転職が当たり前の世の中ではなく、本人も周りも重い決断でした。
しかも人も羨む電力会社。肉親をはじめ、止める人も多かったと記憶しています。
転職理由は「もう一度大学に戻り医学部に入学し環境問題の健康被害に関しての研究をしたい」ということでした。
本音は「何年か公害訴訟を担当し加害者側の主張の方が正しいと思うようになってきた」ということでした。みんな驚きましたが「医学的にどうなのか一から勉強し、将来は加害者側の弁護にまわりたい」とのことでした。
これは転職とは言えません。会社にとっては「裏切り」ではなかったのでしょうか。
退職を止める理由などありません。頭がよくて論客。そこに信念まで加わり、会社にとっては難敵になるのではと思いますが仕方ありませんでした。
筆者からのアドバイスです。
電力会社には時に世の中に対立する意見を噴出させる業務がいくつか存在します。
事前調査し、自分自身のポリシーと整合がとれているのか、そうでないとしても折り合いがつけられるのか。こんなこと知って就活するのは「いろは」の「い」です。
こんなこともできなかったらご本人が不幸になるだけです。
※みんな知らない電力会社のお仕事。 超具体的解説:文系(事務系)。
わかりますか?
ご自身のポリシーと会社の方向性はおそらく違います。
その上で電力会社を目指されるなら、当然会社の目指すところがあなたの目指すところです。
それに耐性がないなら断念すべきです。
筆者の同期は医師としてご活躍のようですが、相当な苦労をされたみたいです。
電力会社に限らず、企業活動は世の中では甲論乙駁するものです。
まずはご自身のポリシーとの整合をよくお考えください。お互いに不幸にならないためにも。
原子力工学在籍者です。電力会社の原子力部門の雰囲気がよくわかりません。技術継承のためとかで、ガテン系なパワハラの世界でしょうか?気が弱いので、メーカーにしようか迷ってます。
技術は見て盗め。へたに聞くとどやされる。ということですか?
「宮大工」の修行のドキュメンタリー番組で見たような気がします。
確かに技術系部門には「一家」的な雰囲気が存在するのは事実です。
副社長か常務クラスを統領として、部門内のヒエラルキーを築き上げます。
部門幹部の言う事は絶対です。
縦割りですが、人事・経理・労務などの管理業務も部門の裁量でやる。
部門外の奴らに部門の内実など理解できるはずがない。ということです。
外部で見ていて思う事なのですが、このシステムに馴染むことができれば、厳しいが大切に育てられ将来は保証される。スポイルされれば二度と戻れない。これが筆者の「技術部門観」です。
このことが「体育会系・封建的・パワハラ」と映るのかもしれません。
ご質問に「気が弱いのでメーカーにしようか迷っている」とありますが、普通は気が弱いから電力会社に来るのではないですか?
遠くから見ていると、メーカーの方がはるかに厳しいと思います。
就職にはあなただけでなく、将来の伴侶・お子様の生活もかかります。
気が弱いから何かをしない、というのではなく、精神力で乗り越えようとする気概が必要です。(喝)
追い込み過ぎたので、良い話もします。
筆者が入社した40年前はまだ「体育会系・封建的・パワハラ」的雰囲気がありましたが、今ではほとんど雲散霧消しています。
理由は以下です。
- 様々な不祥事の噴出によりマスコミはじめ世間から糾弾され何十年も続けてきた古くて傲慢な企業体質に問題があることにようやく気が付いたこと。
自分たちのやり方が世間からずれていると悟ったのはごく最近です。 - 自由化以降、何よりも営業力が優先される環境になり、これまでの価値観が崩壊したこと。
企業が成立していくための大変さを「自由化」によって知りました。 - 特に「原子力部門」は過去から世の中から叩かれることが多く、部門本位な主張など全く受け入れらないことを学びました。他の技術部門よりはるかに開かれた部門に生まれ変わっていましたが、最後のとどめは「福島第一発電所事故」です。
プライドも何もかも打ち砕かれました。引きずり出されるように判明してきた東京・関西の原子力関連の不祥事。さらに追い打ちをかけられました。
相談者の専門である「原子力部門」には、ひと昔前の鬱陶しさはほとんどありません。
「火力」や「送配電」部門の一部に見られるような「体育会系・封建的・パワハラ」縁遠い感じです。
部員も闊達で明るいイメージでした。経産省、地元自治体、マスコミやから普段は厳しい対応をされている反動かもしれません。
相談者へのお答えですが。
「原子力部門の雰囲気が心配で、二の足を踏んでおられるのであれば「心配ご無用」ウエルカムです。
ただ仕事への取組みには真摯さと厳しさが求められます。
それと本店との往復で、現場は田舎です。その覚悟は必要です。」
そもそも「原子力部門」の専門家は「火力部門」からの流れです。
電力会社の歴史から考えるとご理解いただけると思います。
極めてドメスティックな先輩技術者が、アメリカ発の新発電技術を学び始めたのが原子力の黎明期です。そんな新進的な精神を引き継ぎ、「新しい商業用原子力の黎明」に向き合っていただきたいと思います。