文系(事務系)、理系(技術系)別にどのような仕事があり何をしているのか。
具体的に部門(仕事)別に解説しようと思います。
また、さまざまな印象的だった出来事を、episodeというネタ話でお伝えいたします。
みなさん方の疑問に最大限お答えできていると思っています。
ただし間口がとんでもなく広い電力業界。
あくまで私が40年間経験したり、見聞きしてきた範囲です。
おそらくこのような解説記事はどこにもないと自負します。
ただ膨大な記事になることはご了解願います。
理系(技術系)のお仕事です。
筆者は文系(事務系)ですので、技術部門の詳細は20年弱勤務した「原子力部門」以外、
組織はよくわかりませんが、部門の名前でイメージは沸くと思います。
また、どのような業務を分掌しているかは、理解しているつもりです。
加えて「どんな仕事をしているか」、episodeを通じて全体として「どんな雰囲気なのか」
が伝われば幸いと思っています。
技術系は部門の名称がわかりやすいので、事務系のような意味不明さはないと思います。
ただ、早とちりや思い込みで、入社時のイメージと異なることがよくあり、先で頭を抱える
こととなります。
専門性のあまりない事務系とは基本的に違います。何でもいいので電力会社に入りたい、
という無鉄砲ではなく、ご自身の出身学部や専門知識から考えて、筆者が解説するどの部門
のどこに配属されそうか、どんな部門が好みか、果てはご自身の技術力で電力会社に就職
すべきかどうか。
まで熟慮いただける助けになれば幸いです。
以下の部門について記載いたします。
また技術部門はその業務の膨大さや、他部門との業務の質の違いから独立性の高い本部制
を取っていた部門が多かったと記憶しています。
解説の流れもそれに準じさせていただくこととします。
▼火力事業本部
✓火力企画グループ
✓火力運営グループ
✓火力開発グループ
episode 1:火力発電の在り方
episode 2:トランスフォーマー
episode 3:火力発電は僻地か遠隔地勤務?
▼原子力事業本部
原子力企画部門
✓総括グループ
✓人事教育グループ
原子力管理部門
✓管理グループ
✓運転グループ
✓調査グループ
✓廃止措置グループ
原子力安全部門
✓安全管理グループ
✓炉心管理グループ
✓放射線管理グループ
原子力技術部門
✓機械補修グループ
✓電気補修グループ
✓計測制御グループ
✓原子力土木グループ
原子燃料部門
✓原子燃料グループ
✓原子燃料サイクルグループ
原子力建設部門
地域共生部門
episode 4:大臣の権威
episode 5:地元中の地元
episode 6:見学会の効用
episode 7:事務屋は弁当手配
episode 8:襲いかかる役所と自治体
episode 9:定期検査短縮の傲慢
episode 10:むつ小川原
episode 11:原子力屋の幸せとは
episode 12:「Fukushima 50」
episode 13:SМR
▼送配変電事業本部
工務部門
episode 14:送電線リレー
✓送配変電グループ
episode 15:送配変電事業分離
episode 16:ドクター地中送電屋
episode 17:逆立つ髪の毛
✓配電グループ
episode 18:電力会社の財産保全
episode 19:責任逃れの責任
系統運用部門
episode 20:原子力が支える新年
▼IT事業本部
episode 21:筆者の技術屋論
▼再生可能エネルギー事業本部
水力部門
episode 22:技術部門の価値観
episode 23:愛すべき土木技術者
再生可能エネルギー部門
episode 24:再生可能エネルギーの意外な拒否感
episode 25:隠れたイノベーション
▼イノベーション事業本部
研究開発部門
水素事業部門
▼土木建築本部
episode 26:地震の専門家
episode 27:土木屋さんの優しさ
episode 28:技術屋さんの本望
15部門、20グループ。49,000字を超えるコンテンツとなります。
以下に「火力事業本部」を例示します。
みんな知らない電力会社の仕事。超具体的解説:火力事業本部。
筆者が入社の頃「火力一家」という言葉がありました。
家に提灯を飾った神棚があり、毎日親分が手を合わせて一日がはじまる、というあの「一家」
ではありません。なんとなく外部の社員が理解できない「絆と掟」のようなものがあり、
役員から新入社員までそれに「厳しく守られて」生きているという感じでした。
下手な言い方をすれば「パワハラ」のように受け止められますが、そうでは無いという前提で
お聞きください。
「仲間には厳しいが一番下っ端に至るまで、部門で絶対に面倒を見るという文化です」。
例えば人事。
あの人事部といえども口を出させずに部門で決める。
わが部門の人間の評価は技術をわからない人間にできるはずがないという発想です。
管理部門の最たる部門に対し、部門の考え方で論破し実現する気概。
もちろん当時、電力供給を支えているのは俺たち、という自負があってのことだと思いますが、
結果として火力部門の仲間を守っています。
逆に、部門の流儀や文化を受け入れられない社員には徹底的に厳しいという印象でした。
現代の若者にはありえない話かもしれませんが「出社は下から順番、昼ごはんと帰宅は上から
順番」。「上司が下痢なら担当者は全員昼抜き」などと揶揄されました。
逆に、現場への配置転換を嫌がる後輩の奥様に理由を聞いたら「子供の教育問題」。
先輩である上司が後輩の現場勤務期間中、子供を預かり学校に通わせたという逸話もあります。
ウエットなイメージがありますが「田舎勤務がいや」「体育会系も嫌」が転職理由に挙がる
今の世代の若者、みなさん方にとってはどうでしょう。
流石にこんなことは無くなっていると思いますが。
余計な話はここまで。業務内容の詳細に移ります。
以下に個別に解説しますが、火力発電所は全ての技術の集大成と考えます。
機械の塊が電気を生み出すので機械工学と電気工学。
こんな単純なものではありません。あらゆる技術の集大成です。
みなさんのイメージの湧く出身学科でいうとほぼ全てです。
発電所は機械の塊(機械工学)、劣化や脆化は許されませんが、悩まされるのは応力腐食
(金属・冶金・材料工学)、当然必要な発電技術と再現性のないトラブルへの対応の知見
(電気・電子工学)、Nox・Sox・煤塵・脱炭(環境・化学工学)、その他、制御・通信・
建築・土木・流体工学など多彩な学科や院出身の専門家が必要です。
他に筆者のような事務屋には気づかない業務もあると思います。
個別技術の集合体である何十万もの部品が組み合わされた巨大技術。
原子力発電所と同様、自然に溶け込む発電所の姿の美しさに魅せられます。言い過ぎ?
当時はこのように「飛ぶ鳥を落とす勢い」の火力部門でしたが今ではどうでしょうか。
・地球温暖化対策で化石燃料の使用はやめるべし。
・LNGだけはCO2の排出量が少ないから温暖化対策上問題なし。
・福島事故で原子力発電が使えないから、火力発電所を再稼働せよ。
・外国で戦争が起きたから、博物館級の発電所まで復活させよ。
・でもG7で決まったから石炭はやめる。
・もっと良い燃料や発電方式はないのか。工夫せよ。
技術論だけでなくポリティカルな判断を求められます。
右往左往です。
身勝手ですよね、同情します。
でも、だから面白いのかもしれません。
✓火力企画グループ
総論で述べたようにいったいどうすればいいのかよくわからない状況です。
ただ発電所は厳然と存在しています。
廃止にするの、続けるの?
石油・LNG・石炭、全部一緒ですか?
いろいろな人がいろんなことを無責任に言いますが、それで結論は?
大変ですが、これの解決をもとめられるのがこのグループでしょう。
前にもお話した部門人事や教育といった大きく言えば技術温存のための業務。
もっと上のレイヤーでは、火力の発電・建設計画やその中長期的戦略なども考えなければ
なりません。この解説ではあまり内容にまで踏み込むつもりはありませんが、就活生には
ご認識いただきたいという意味で「第6次エネルギー基本計画」に触れたいと思います。
2030年ミックスの「野心的見通し」として「LNG:20%、石炭:19%、石油:2%」
という数字が登場します。
感想は2通りあると思います。
現場から「そんなん、できるわけない!」。
政策側からは「案外使うのね!」です。
両方とも正しい感想だと思います。
というかそれほど混沌としている状況ということです。
地球温暖化対策、不安定な国際情勢、自国優先のエネルギー政策、G7など日本の国際的な
立ち位置、日本のエネルギー情勢、さまざまな要因に揺り動かされます。
このグループは原子力と比べて地味な感じはしますが安定感があります。
電力会社の屋台骨を支える部門・グループであることは間違いありません。
✓火力運営グループ
火力発電をどうするのか、理屈で考える人たちは甲論乙駁です。
それはそれで重要な業務です。
でも実際に火力発電所は電源の70%を超えるほど実際に存在し、日々発電しています。
この子たちをどうするのですか?
心優しい技術者は絶対にそう思っておられるでしょう。
将来のことは別にして、とりあえず電源構成の中のミドル・ピーク電源としての役割を認識し
絶対に事故を起こさないように日々の運営にあたること。
簡単なようで大変な責務です。
配下にすべての火力発電設備を所管します。
世間はいろいろ言いますが、火力発電には無理をかけています。
その無理を全て笑顔で受け止めるグループです。
老朽火力の再稼働、熱効率の改善、温暖化をはじめとした環境対策。
リアルな現実を見つめながら電気を送り続ける業務です。
何より大切な業務は、既存の発電所の「絶対安全」を目指して実施する「定期検査」。
全てのプラントを、隅々まで分解点検します。
もちろん法定点検で、国の厳しいチェックも入ります。
そのほか、電力会社再編成の時代から重石のように肩にかかる環境問題。
昔はNox・Sox・煤塵・脱炭。
現代ではご存じ温暖化対策としてのCO2の減量です。
CO2の排出権取引とかカーボン・オフセット・クレジットなどの応用動作は環境部門に
任せるとして、純粋に排出量を減らすために技術的に何をすべきか。
この部門のミッションです。
✓火力開発グループ
ほとんどの電力会社の火力発電は、石油・LNG・石炭です。
エネルギー基本計画でも、まだまだ活用する予定。というものの傾向としては、国際的にも
化石燃料はもうやめましょう、という雰囲気です。
何十年も頑張ってきた火力発電、何とか続ける方法はないのでしょうか。
ここを考えるのが開発グループです。
火力屋さん以外は耳慣れない言葉だと思いますが、コンバインドサイクル(CC)という発電
方式があります。圧縮した空気の中で燃料を燃やし燃焼ガスの膨張力を活用してガスタービン
を回し、更にその排出余熱で蒸気タービンを回す方式を組合す発電方式です。
何となく車載エンジンのターボチャージャーのようなイメージです。
火力発電の評価軸である「熱効率」でいうと、LNGでは従来の40%上昇しています。
各電力会社、先を競って切り替えに取り組んでいます。
発電方法ではなく、火力発電用燃料そのものを「そしり無きもの」に改善しようという動きが
あります。
そんなに「化石燃料」が悪者なら火力発電の根本から変えたい。
発電用燃料から新しいものにという発想です。
水素・アンモニアの活用が「エネルギー基本計画」でも打ち出されています。
これまでは、研究開発グループでのハンドリングだったと思いますが、具体的な利用部門まで
下りてきており、検討に具体性が付加されているということだと思います。
既存発電所は運営グループの所管ですが、コンバインドサイクルや、新しい思想での発電計画
が進捗すれば、開発グループの業務となるのでしょう。
建設・改修プロジェクトに参画するのは、技術系社員のダイナミズムです。よね?
episode 1:火力発電の在り方
ベース電源・ミドル電源・ピーク電源という電力用語があります。
電力会社は、なんかわからないけど適当に発電所を動かしているわけではありません。
コストと発電能力と運転の可動域で使い分けをしています。
ベース電源:コストが比較的安価で、一定の発電量を継続的に出し続けるのが得意。
逆に言うとユーザビリティはもう一つ。
原子力や流れ込み式水力がこれに当たります
ピーク電源:電力利用量がピークを向かえる時期や時間に対応できる発電所を指します。
火力発電や揚水発電所です。
ミドル電源:ベースとピークの間、というか両方のユーザビリティを兼ね備える発電所で
まさにLNGや石油火力がこれに当たります。
電源ベストミックス、国際情勢、政治。
いろいろなことに翻弄されますが、火力発電の在り方の着地点は必ずあります。
でなければ電力会社は破綻します。
悪者になるケースもありますが、頑張れ火力屋!
episode 2:トランスフォーマー
アメリカのSFアクション映画ジャンルで人気の「トランスフォーマーシリーズ」。
銀河のかなたの惑星サイバトロンで創造主によって生みだされた、金属生命体であるトランス
フォーマーが、車や飛行機に姿を変え、オートボット軍として地球に飛来、宇宙の独裁を狙う
ディセプティコン軍との戦いを描いたものです。
どのシリーズか忘れましたが、オートボット軍の戦力が落ち込み、博物館に展示されるくらい
遠い昔に引退した大先輩トランスフォーマーに戦いの助けを求めるというシーンがありました。トランスフォーマーのリーダーであるオプティマスプライムの呼びかけに目覚める古き勇士。
でも体は錆付いて、最後は最新武器に武装した敵にやられてしまします。
かなりその分野の映画を愛する人には有名なシーンです。
筆者も大のSF映画好きですが、福島第一発電所事故の影響で原子力が停止し、各電力会社が
停止した火力発電所を再点検。
「寝ている火力発電所を叩き起こした」と聞いた時、はからずもこの映画のワンシーンを思い
出しました。かたやSF映画、かたや現実です。
もちろん、こんなことをいつまでも続けるべきではありません。
でも引退した「爺さん火力」がいつ隠居できるのかは見通しが立ちません。
異常事態です。
episode 3 :火力発電所は僻地か遠隔地勤務?
新入社員の方が早くも電力会社が嫌になり、転職を考える理由に「転勤が多く、遠隔地勤務が
ある」「いなか勤務に辟易」というのがあったと思います。
もちろん、電力会社にも定年まで自宅通勤で、家族帯同の遠隔地勤務や単身赴任の経験がない
というという人もいます。
ただ感覚的にはレアケースとまでは言いませんが、こういう人の方が少ないような気がします。
もう少し考えを進めると「僻地勤務」と「遠隔地勤務」のどちらが嫌なのでしょうか。
火力発電所の場合は微妙で、僻地だけでなく都心近くにも立地されています。
おそらく火力部門の人は大卒なら、本社管理部門と発電現場を何年かおきに行き来されるはず
です。僻地・遠隔地が嫌というのを言葉通りに受け取ると、僻地勤務は50%・遠隔地勤務は
それ以上という感じでしょう。
さらに「自宅から通勤範囲の勤務」でないと嫌という意味なら、ほぼ無理だと思います。
おそらく大学での火力技術の研究者くらいしか無理なのではと思います。
素晴らしい技術の持ち主ですから、もっと多様な考え方を持たれた方が得策だと思います。
続きはこちらから
※みんな知らない電力会社のお仕事。 超具体的解説:理系(技術系)。
総論解説は以下から。
※電力会社のお仕事本当に知っていますか?社内の雰囲気も伝えます。
事務系は以下から。
※みんな知らない電力会社のお仕事。 超具体的解説:文系(事務系)。