原子力発電所、元現場勤務社員の本音。運転期間延長は大問題です。

京都の夜景 原子力

経済産業省の有識者による「原子力小委員会」で、発電所の実質60年超の運転延長と廃炉跡地での
次世代原子炉へのリプレースが決定しました。
※参照:今後の原子力政策の方向性と 実現に向けた行動指針(案)のポイント
マスコミも、原子力政策の大転換として、驚きを持って報道しています。
※参照:毎日新聞

話は変わりますが、本件は日本の原子力政策の大転換点という思いで、いろいろと検索いたしました。
その一部、エネ庁の資料と、わかりやすい報道記事を参照させていただきました。
そこで気づきました。
ネタがネタだけに、ヒットするのは国・電力会社・関係団体・マスコミの記事ばかりです。
これでは、電力会社を引退したジジイの記事など埋もれるどころか、ワールドカップの満員のスタジアムのなかで、私が見つけられるより低確率だと思いました。
検索トップに並ぶ記事は、遠い昔の「大本営発表」みたいな記事が並び、少し君悪い感じさえしました。

これまでの原子力関連記事は、話題になっている政策の意味とか問題点とか、どちらかといえば解説的な記事を書いてきました。
反省ですが、電力会社就活生諸氏なら読めばわかるし、この辺りの認識を深めておられない方は、合格はおぼつきません。
「原子力」については、解説とかでなく、40年も現場で似てきた経験や思いを、少しトンガってお伝えすべきと感じました。
後輩や関係者からはお叱りを受けるかもわかりませんが、あえて書きます。
事実ですから。

今回の措置につきまして、私の疑問点は4点あります。
添付しました経産省の記事を熟読されたうえでお読みください。

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経産省エネ庁と原子力規制委員会との関係。

エネ庁は40+20年の原則を変えずに、技術的問題以外で停止していた期間をノーカウントにする。
ということです。
特に、訳のわからない理由で、運転差し止めをくらった司法の介入が相当頭に来たのでしょう。
ここは理解できます。
東日本大震災以降、10年近くプラントは停止していますので、最低各基+10年でしょう。

一方、原子力規制委員会の山中委員長は、運転開始から30年経過すると「ドック相当年齢」とみなし、10年ごとに「検査」するというルールを打ち出しました。
上限は設けないということです。
山中伸介委員長は会見で、事業者が長期間にわたって原発を運転するハードルは今よりも高くなるという認識を示しました。
※原子力の運転期間延長の議論です。40+20年ルールの見直しか。
引用します。

運転開始から30年以降は、最長10年ごとに基準に適合していれば認可し適合しなければその時点で運転をやめていただくルールにつくりかえようという考えだ。
最長10年ごとに繰り返し認可を求めることは、現行の制度よりもはるかに厳しい規制になるという認識だ。

なんとなく山中委員長案の方がスカッとした感があります。
エネ庁の方が、なんかゴチャゴチャと姑息な感じがします。
西村経産大臣も会見で「経産省がとんな案を出しても、規制委員会が認めなければ運転できない」
とコメントしていました。
経産省と規制委員会は相変わらず利害相反なんですか?
というと胡散臭いですが、山中委員長の見識とバランス感覚に期待したいという思いです。
山中委員長は、これまでの規制委員長とは全く違う次元の見識を持たれる方です。

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バックエンド。

これまで以上に国が前面に立って、原子力発電環境整備機構(NUMO)・事業者の機能及び活動をより一層強化していく。
とありますが、これまでバックエンドの問題に国が前面に立った様子を見たことはありません。
「文献調査」の地域拡大ともありますが期待薄です。
10年前と何も変わっていない印象で、さらに廃炉による膨大な放射線廃棄物の発生が予想されます。

電気料金への影響。

今回の措置は、エネルギー安全保障・地球温暖化対策でがんじがらめになった、日本のエネルギー問題の解決のためであることはよくわかります。
ただ本当に電力料金の安定につながるのでしょうか。

「今後の原子力政策の方向性と 実現に向けた行動指針(案)のポイント」を見ただけで、「廃炉」「次世代革新炉会開発」「バックエンド」。
膨大な費用です。
電気料金に上積みされることは間違い無いでしょう。
防衛費は「次世代を守るため」のはずが、「次世代にツケを残さない」ということで、「防衛費増税」を打ち出す政府です。
さらに「エネルギーの増税」なんてことも考えられるのではと心配します。

運営・運転体制。

一番気になるのが次です。
再稼働への関係者の総力の結集として、「国が前面に立った対応」「事業者の運営体制の改革」の推進という記載があります。
問題は「事業者の運営体制の改革」の方です。
傲慢さと非常識さで引き起こしたさまざまな不祥事。
「カルテル」による業界利益しか考えない思考。
本当に今の電力会社の人間で、こんな大胆な政策を推し進めていいのでしょうか。
※電力会社を辞めたい人へ。カルテルで企業イメージは地に落ちました。
※変わりたい、変われない電力会社の企業体質。このままでは周回遅れに。

大変疑問です。

まとめ。

原子力で長く過ごしてきたため、原子力の安全性については、自信を持っており、信用をしています。
ただ、放射能というみんなの忌避材料があり、嫌悪施設としてのイメージが先行しています。
決してそうでは無いことを訴え続けなければならないと思いますが、大きなところで解決すべき点が厳然とあります。
ほとんどが、一電力会社ではなく国家レベルで取り組まなければならないハードルです。

ただ、最後の「運営・運転」体制だけは電力会社固有の課題です。
これまで何度も修正するチャンスはありましたが、もう無理だと思います。
「電力システム改革」の流れの中でドラスティックな改革が必要だと思います。
少なくともここ何年か、問題視された不祥事の当事者がスタッフであれば、好ましくない何かが起きる
ような気がします。

原子力
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。