原発再稼働。やっと決断されたようです。でも良く聞くと何かが変です。

記者会見 エネルギーセキュリティー
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政府発表の原発再稼働の意味、わかりますか?

先日、食事しながらnhkの7時のニュースを見ていると、岸田首相の会見の模様が報道されていました。
参議院選挙後の政策の会見だったと思います。

「予想される今冬の電力ひっ迫に備え、9基の原子力発電所を再稼働させる」という言葉が飛び込んできました。
会見の脈絡として、凶弾に倒れた安倍元首相の意志を継承するという流れだったので、「世界一厳しい規制委員会の審査をパスした発電所から順次再稼働させる」という元首相の意思をさらに超えて、将来の原子力の新増設やリプレースまで言及するものと勝手に思い込んでしまいました。

これで将来に向けての日本のエネルギー問題は全て解決するのでは、と思っていましたが、某紙のデジタル版で確認すると期待は完全に裏切られていました。

引用させていただきます。

岸田文雄首相は14日の記者会見で、萩生田光一経済産業相に対して、電力需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される今冬に、最大9基の原発の稼働を進めるよう指示したことを明らかにした。首相は「できる限りの多くの原発、この冬で言えば最大9基の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保する」などと述べた。さらに、電力消費のピーク時に余裕をもって安定供給できる水準をめざすため、「火力発電の供給能力を追加的に10基をめざして確保する」ことも求めたという。これらが実現すれば、過去3年間で、最大の供給力を確保することにつながると説明した。首相は「政府の責任であらゆる方策を講じ、この冬のみならず、将来にわたって電力の安定供給が確保されるよう全力で取り組む」と語った。

エネルギーや電力の問題にも「トレンド」があります。

蛇足ですが、今、エネルギー、電力、特に需給ひっ迫などは日本の「トレンド」の話題です。
電力会社の人事担当者はこういうテーマに拘ります。
何気なく就活生に質問し、知らなかったら足切りに使います。
「なんだ電力会社を志望しながらこんなトレンディな話題も知らないのか。話にならん!という具合です。」

このブログでは、できるだけ「トレンド」ネタも扱い、私の意見も書こうと思っています。
ただしブログ全体の脈絡から外れることもありますがご容赦願います。
就活生諸氏も、できるだけ深く知り、必ずご自身の意見を語れるよう準備されるべきと思います。
人事担当者との戦いですから。

私の期待と勘違いを解説します。

経済産業大臣に指示

ご存知の通り日本の原子力行政の要は「原子力規制委員会」です。
福島事故後、推進する組織と規制する組織が経済産業省に同居しているから、国・立地自治体・経産省・学者・電力会社による「原子力ムラ」が形成され、利権構造を産むとかとか言われ、環境省の外局として「原子力規制庁」が発足しました。
根拠法は「国家行政組織法」で、強い独立性が担保されたものとなっています。

当時うまく機能していた原子力の運転の歯車を、言われなき非難を受けたものの「事故を起こしたのだから仕方ない」とみなさん唇を噛んでおられたことを思い出します。

前述の通り「原子力規制委員会」は独立性の高い組織で、総理大臣でさえ無防備な発言はできません。
ましてや利害相反である経済産業大臣に指示したという段階で何かがおかしい。
少なくとも将来にわたる原子力政策の問題を指示したのではないということがわかります。

すでに規制委員会の審査をパスしたプラントのことを言っておられるのは明らかであると感じました。

最大9基のプラントの再稼働

9基?どこかで聞いたことがあると思いました。

「第6次エネルギー基本計画」でいう原子力20〜22%を達成するためには9基程度のプラントの再稼働が必要だ、と当時どなたかがおっしゃっていました。
では9基再起動できれば万々歳なのではと思われると思いますが全く違います。

理由は以下の2点です。

2050年に稼働できる原子力プラントはありません。

まず簡単な話ですが、今回指定されたプラントの中で最も新しいものは、四国電力伊方・九州電力玄海それぞれ3号機で1994年の運転開始です。
現在で約30年、2050年にはもう運転できません。

どこかのプラントが規制委員会の審査に合格したというタイミングで、2050年「カーボンニュートラルに資する」というコメントを出した経産大臣がおられましたが、この大臣は電力会社の入社試験に失敗するでしょう。

原子力には時間と金がかかりすぎ

今回、岸田首相が言われた9基は、関西電力大飯3・4号機、美浜3号機、高浜3・4号機(以上、福井県)、四国電力伊方3号機(愛媛県)、九州電力川内1、2号機(鹿児島県)、同玄海3号機(佐賀県)です。
ご想像通り、すでに規制委員会の審査をパスしたプラントばかりです。
ただ福島事故後の安全対策の中で、テロ対策として義務付けられている「特定重大事故等対処施設」の設置が間に合っていないものです。

経済産業大臣に指示されたというのは、設置工事に関して、電力会社の尻を叩けと指示をしたという意味なのでしょう。

この施設は航空機によるテロ対策として予備の制御室などを備えるべし、というもので、電力会社にとっては費用・工事ともに大変な負担で、委員会も設置まで5年の猶予を与えるくらいのものです。
当時電力会社の技術者は「こんな夢見たいな対策、規制委員会は本気で求めるだろうか。5年の猶予があるので、ほとぼりが冷めたら撤回するだろう。」と鷹を括っていた雰囲気がありました。

残念ながら「本気」でした。

これが2点目の理由です。
これから厳しい競争にさらされる電力会社が、これまでより5年以上の時間と規制基準をパスするための膨大な工事費を負担してまで原子力に解を求めるか、という点です。

火力発電の供給能力を追加的に10基をめざして確保する

火力といっても石油、石炭、天然ガス、コンバインドサイクルなどがあり、どんなプラントですか。
新設ですか昔の引退した発電所のサビをとって使うのですか。
「トランスフォーマー」で大昔のロボットを復活させて闘わせたシーンを思い出しました。

何よりも2050年カーボンニュートラルはどうするのですか。
これからの話は何もありません
今回の記者発表では、原子力を9基再稼働させ、火力を10基稼働させれば、とりあえずこの冬の電力ひっ迫は乗り切れるとはおっしゃっておられます。

これらが実現すれば、過去3年間で、最大の供給力を確保することにつながると説明した。首相は「政府の責任であらゆる方策を講じ、この冬のみならず、将来にわたって電力の安定供給が確保されるよう全力で取り組む」と語った。

ということです。
将来どうするのか知りたいですよね。

まとめ

EU(欧州委員会)は原子力発電を地球温暖化対策に役立つエネルギー源と位置づける方針を発表しました。
ドイツの原子力破棄とフランス原子力推進のようにEU内での意見の対立もありましたが、ロシアのウクライナ侵攻により、ドイツの意向は雲散霧消したように見えます。

東日本大震災に伴う福島第一発電所事故の際、当時の民主党の野田首相は、ご自身のイデオロギーを乗り越え、関西電力大飯発電所3・4号機の時限再稼働を求めました。当時心の中で拍手をお送りしたことを記憶しています。

かたやこれまで原子力推進の旗を振ってきたのは自民党です。
2050年カーボンニュートラルを打って出たのも自民党です。
岸田首相にも野田首相以上の勇気あるご決断をお願いしたいと思います。

エネルギーセキュリティー
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。