50年ぶりのオイルショック襲来。日本も電力会社も正念場です。

EU国旗 エネルギーセキュリティー
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今のエネルギー情勢は、第三次オイルショックです。

第三次?
聞き慣れないと思います。今起きているロシアのウクライナ侵攻の結果、巻き起こっているエネルギー危機をあえてそう呼ばせていただきます。

ロシアはみなさんあまり認識がなかったと思いますが、実は世界で有数の資源大国でもあります。石油は世界第3位、天然ガスは世界第2位の産出国です。

そのロシアとの資源取引を西側諸国は、経済制裁の一環として停止しようとしています。
しかし今回の経済制裁は「肉を斬らせて骨を絶つ」的な発想で、副作用である「斬られる肉」のあまりの痛みにのたうちまわっているという感じです。
エネルギー資源を戦争の武器として使用しようとするロシアの作戦も相まってEU各国は明らかにパニック状態です。

「脱原発」と「温暖化対策」としての「脱化石燃料」圧力。
世界各国で一緒に考えましょう。
とはいうものの急には無理で、目標は2050年。
今の段階では世界の「化石燃料」に頼るしかありません。ロシアの資源にも。
そこに「ロシアのウクライナ侵攻」。
急ぎ「再生可能エネルギー」の開発?間に合うはずがありません。
世界が大混乱に陥れられているという意味で、「第三次オイルショック」と表現させていただきました。

日本は50年前から中東を中心とする産油国の政情や、気ままな産油制限に苦しめられ、常に「油断」することのないよう準備してきているものの、エネルギーの需要は当時とは比べ物にならず、世界と大同小異というところでしょう。

今回は、EUを中心とした世界の現状に触れたいと思います。

蛇足ですが、日本が第二次世界大戦に突入せざるを得なかった大きな理由として、世界各国からの石油の禁輸措置であると言われています。これを「第一次オイルショック」と考えるのならば、今回のロシアのウクライナ侵攻による危機は「第四次オイルショック」と呼ぶべきなのかもしれません。

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地政学的考察。

最近さまざまな場面でこの言葉を耳にします。地政学とは「国際政治を考察するにあたって、その地理的条件を重要視する学問」ということらしいです。

また「地政学的リスク・例」と検索すると、「紛争やテロによって石油関連価格が値上がりして業績が悪化したり、世界経済が停滞することなどが挙げられる。」と出てきます。「石油」が検索の例に挙げられています。
それほどエネルギー資源と地政学とは関連が深いということなのでしょうか。

日本の「島国」「小資源」というのも地政学的リスクということでしょうか。

アメリカ

先程、ロシアの石油・天然ガスの埋蔵量について言及しました。では1位はどこでしょうか。

石油 1.アメリカ 2.サウジアラビア 3.ロシア
天然ガス 1.アメリカ 2.ロシア 3.イラン

ということです。ご存知アメリカは大量生産・大量消費の典型国です。いくら埋蔵量があっても基本自国消費でしょう。
加えてイメージが沸きませんが、全土に20兆m3のシェールガスの埋蔵量があると言われています。
ロシアに資源戦争を仕掛けられ、困り果てているEU各国へのシェールガスの供給を約束すれば、アメリカの国際的なプレゼンスも上がるような気がするのですが、素人考えでしょうか。

それとも採掘コストが下がり、販売価格の高騰すなわち「売りごろ」までじっと待っているということでしょうか。

EU(欧州連合)

地政学的に日本と最も条件が異なるのがヨーロッパでしょう。

ロシアとの資源戦争で大きな影響を受ける国々です。
2021年現在のEU(欧州連合)の加盟国は27カ国と言われますが、ほぼ全ての国が陸続きであることが大きな特徴です。
エネルギーだけに限らず、インフラのほぼ全てがつながっています。

今まさにロシアからドイツを2本のパイプラインで繋ぐ「ノルドストリーム」での天然ガス取引を禁止することが決定され、EUとロシアのチキンレースに発展しようとしていることはご存知のことと思います。

政治的に敵対する国同士が遠大なパイプラインまで敷設して取引を行い、仲が悪くなると政争の具となる。
まさに地政学的リスクそのものと思えます。
また、それほどエネルギー資源は国家にとって重要なものということでしょう。

「電気」も同様、広大なヨーロッパという他国間での国際連携線での広域運営が可能であるからこそ、エネルギーの過不足をあまり気にすることなく、EU諸国は、勝手きままに政策決定を打ち出し続けることができたと言えます。つい最近までは。

ちなみにEUを離脱したイギリスも、エネルギーの国際連携という意味では同様で、ドーバー海峡34kmに海底ケーブルを引き込むくらい容易いことです。

ここでは、典型的なドイツとフランスについて考えてみます。

ドイツのメルケル政権は「原子力は再生可能エネルギー導入が進むまでのつなぎの技術」と位置付け、原子力の運転期間を12年延長する方針を打ち出していました。

しかし彼女は2011年に福島事故を目の当たりにし、この約束を直ちに反故。
2022年までに原子力を全て廃止することとし、その約束を実現してしまいました。

元々ドイツは市民運動が活発で、1986年のチェルノブイリ事故で脱原発に舵を切ろうとしていました。
それが決定的になったのは1998年のコール首相の退陣です。
左派のシュレーダーが率いる社会民主党と市民団体である緑の党の連立が成立し、いわゆる「赤緑のドイツ」が成立した頃からのことです。その後、東ドイツ出身の物理学者であるメルケルに政権が移ってからは、自然エネルギー導入に一目散に突進していったものの、原子力抜きでのエネルギー政策などあり得ないという現実に直面していました。
しかし、メルケルの決断の背中を押すことになったのが日本の福島事故であり、結果としてプーチンに組みし易しとドイツを舐めさせたのも、巡り巡って日本の責任。皮肉な結果かもしれません。

ただし、そのドイツの決断が可能だったのは、やはり電気やエネルギーの国際広域運営が可能であったということであったと思えます。国内で原発を廃止して、電気が足りなければ近隣のフランスは電力輸出国。いくらでも輸入できるという事実があります。
ただしフランスの電力の60%近くは原子力で、南部のラ・アーグには使用済みウラン燃料の濃縮や再処理施設まで保有しているという事実には目をつぶる必要がありますが。

国ごとに綺麗な政策を訴えはいたしますが、EU全体で見ると、原子力は続けていますし、対峙する可能性のある国と大胆にエネルギー資源の取引を行なっています。

我が国も他国の動きにいちいち影響を受けるのではなく、地政学的な特殊性を十分に考慮したエネルギー政策が必要であると考えます。

2020年1月1日、朝日新聞に以下の記事が掲載されています。
この記事が、原子力に厳しいはずの朝日新聞であることも注目すべきです。

「欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は1日、原子力発電を地球温暖化対策に役立つエネルギー源だと位置付ける方針を発表した。原発の活用については、ドイツが脱原発を進める一方でフランスが新設を検討するなど、EU内で賛否が割れているが、欧州委は、再生可能エネルギーを主軸にした「脱炭素社会」への移行過程で、天然ガスとともに「(果たしうる)役割がある」とした。温室効果ガス排出を2050年に実質ゼロにする目標の実現に向け、原発を脱炭素につながる『グリーン』とみなして投資を呼びやすくする。運転期限を迎える原発もあり、域内での新増設も後押しする形だ。」

2年前でありますが、見事にEUの意思決定に、フランスとドイツの意向が色濃く反映されているように思える方針です。

しかし、ノルドストロームの元栓が閉じられかけているいま、石炭の約50%、原油の約70%の二酸化炭素を排出する天然ガスをどう扱うのでしょうか。
原子力はどうするのでしょうか。
注目したいと思います。意地悪な書き方をしてすいません。

また日本も国際協力も必要だと思いますが、6月や冬ピークでの需給危機など、過去経験したことのない異常事態に、本当にどうやって国益を守るのか真剣に考えるべき時にきていると思います。

次回は日本の対応と、私の考えをお知らせいたします。

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塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。