エネルギー資源の確保は永遠の課題。自然災害や国際情勢が追い討ち。

石油タンカー エネルギーセキュリティー
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「石油」は車の燃料くらいと思っていませんか。

私は今から40年少し前、第二次オイルショックの最中に電力会社に入社いたしました。
当時はまだ薪でお風呂を沸かしておられるご家庭も多くあり、火力発電所で石油を燃料にしている。
「へえー凄いな」くらいの感覚でした。

ところが入社して、いろいろと知ると驚くことばかりでした。
「石油」使用のシェアは「発電」と「ガソリン」くらいという認識でしたがさにあらず。
この世の中に石油加工製品がとんでもなく多種多様なこと。
思いつくだけで、ナイロンなどの合成繊維、タイヤなどのゴム製品。
それだけでなく石油と無関係な製品でも輸送にはトラックを使います。
今では熱源や動力源も多様化し、脱石油に向かっていますが、電気自動車も電気がなければ動きません。
エネルギー資源の確保はそういう意味で「永遠のテーマ」。
「油断」があると、たちまち経済は大停滞を起こします。

その時代から業界内の雰囲気は、「石油」に依存しすぎるのは問題が多過ぎるという感じでした。
政情不安定で自分達の都合だけで増産・減産をする国家カルテル。
増減産する理由も、戦争や日本人には訳がわからないイスラム世界の原理。
本当に供給されるのか否か、真面目な日本人には受け入れ難い文化だったと思います。

このような資源や産油国にいつまでも依存していていいものか。
真剣に考える必要は当時から叫ばれていました。
私の意見も添えてお話いたします。

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日本の「地政学的リスク」

「石油」の取引には本船積込渡し(FOB)と運賃・保険料を含めた炉前取引(CIF)があります。
当然、電力会社としてはCIFという一択となります。

理由はおわかりと思います。
中東の産油国からどのような航路を原油タンカーが航海するかを想像願います。
日本人には理解できない紛争の巣である中東の国からホルムス海峡・マラッカ海峡、最近では中国の覇権主義の産物である南シナ海経由です。
考えただけでゾッとするようなハイリスクな海路です。
資源国からの距離も遠く、長い海路以外に輸送手段はなく、しかもリスクの高い航路を選ぶしかない。
当然、信じられないような輸送料・保険料となるのは想像に難くありません。
これこそ日本の「地政学的リスク」に他なりません。

この経験から現在まで、エネルギーに関して日本が意識してきたことは2点です。

エネルギー資源の多様化

産業や家庭生活の基本であるエネルギー源の90%が「石油」。
供給に支障が出た瞬間に、日本は破滅的な打撃を受けるでしょう。
「石油」は備蓄しているとはいえ3ヶ月分程度です。
考えるべきは石油離れだったのでしょう。
石炭を初め、天然ガス、新エネ(現在は再生可能エネルギー)などできるだけ多くの選択肢を持ち、リスクの最少化をはかろうというものです。

特に当時、最も期待が高まったのが「原子力発電」です。

1970年代になって次々に運転を開始しはじめました。
また研究途上であった「核燃料サイクル」が達成できると半永久的にエネルギー供給に悩む必要がなくなり、原子力は「夢の準国産エネルギー」と言われました、理論上は。
ただし現実は頓挫しています。
ここまで話題を広げると収拾がつきませんのが、原子力のカテゴリーで余裕があれば言及させていただきます。

さまざまなエネルギー源をテーブルに全て並べ、その時代でのベストチョイスは何かという国民的合意で決定するべき。
これを「エネルギーベストミックス」、発電の場合は「電源ベストミックス」と言います。
この考え方は、中身や問題点は変われども、現在の「第6次エネルギー基本計画」でも全くぶれることはありません

調達先の多角化

「エネルギーベストミックス」のため、エネルギー源の多様化を考えると、調達の中東依存も自然に解消に向かいます。
現在では「石油」の90%は中東に依存していますが「天然ガス」や「石炭」に関してはオーストラリアやアジア各国からの輸入が中心となっています。

今考えるべきこと

当時は「脱石油」という観点での考えでしたが、今や「福島第一事故による原子力の拒否感」「脱炭素による化石燃料の扱い」「再生可能エネルギーの問題点」「ロシアのウクライナ侵攻による世界的なエネルギー不足」。
検討すべき要件は山積みで、あれもダメこれもダメで、日本のエネルギー調達は八方塞がりとなります。

「原子力の再稼働、新増設」が可能であれば一つの解決方法です。
しかし10年前のあの大事故が帳消しにしています。

未だ帰還も叶わない福島浜通りの方々がおられるという中で、エネルギーセキュリティーをどう考えるのか。
現役社員やこれから電力会社に入社する方々に重く突きつけられた大命題です。
「原子力発電」のカテゴリーテーマの際に詳しく書きます。

私の意見

私の入社当時、エネルギーセキュリティーなどというものは、経済産業省や電力会社一部の人間だけが考える問題というイメージでした。

しかし今や、台風の大型化、豪雨、夏のクレイジーな猛暑、山火事、これまで体験したことのない自然現象が起きます。
その原因と思われる「地球温暖化」。
脱炭素は喫緊の取り組みです。

そうはいうものの、なんとなく今を乗り切るために利用しようとしていた「ロシア」の資源も使えなくなりました。
OPECは相変わらず自国の利益だけです。

どこからともなく「石炭火力」の再利用という声も聞こえてきました。
元の木阿弥という感じです。
「石油火力」の運転だけでも危ういのに、何か引退した私より年上の先輩を再招集してなんとか昔取った杵柄でこの電力危機を乗り切ることができないか、などと考えているような気がしてなりません。

6月の猛暑日の連続とか「電力需給ひっ迫注意報」。
テレビに映し出されるのは、事務所の電灯の間引き、エレベーターの運転停止。
50年前のオイルショックの時の映像です。

政府のコメントは「熱中症にならないように適切にクーラーを使いながら節電にご協力を!」どうしたらいいのかさっぱりわかりません。
「適切」って何?
真冬に電力ピークなども発生するのは北海道電力だけだと思っていました。

誰が考えても、時々大きなドジは踏みますが「原子力」を再稼働させるしかありません。
現段階でのエネルギーベストミックスの考え方には、当然ながら「安全を確認できたプラントの再稼働」が含まれます。
エネルギー危機を乗り切り、温室効果ガス対策も可能な選択肢は現実的にこれ一択です。

第6次エネルギー基本計画を読んでも、経産省はシュリンクしているとしか思えませんし、政府も「モノいえば唇寒し」です。

毎年30万件を数え、3000人の死者を出す交通事故があっても誰も道路を通行止めにしようとは言いません。
鉄道事故は動かしながら処理します。
大惨事の航空機事故の翌日でも飛行機は飛んでいました。
なぜ「原子力」だけ技術論で語られることがないのか、いつも疑問に思っています。

とりあえず電力危機の間だけでも「試験稼働」させるとか、工夫しろは全くないものなのでしょうか。
これから電力会社に飛び込む方々の大きなテーマです。

良い案が思いつけば、この続きを是非書いてみたいと思っています。

エネルギーセキュリティー
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。