原子力の運転期間延長の議論です。40+20年ルールの見直しか。

原子炉 原子力

原子力発電所の運転期間延長の議論が進められています。
「第6次エネルギー基本計画」発出の際に、「再生可能エネルギーを経済成長のエンジンに」というコメントを出していた政府が、あれよあれよと言う前に「原子力発電所の運転期間延長」の議論まで進めつつあります。
※電力需給に関する国策の大転換を見ることができたのかもしれません。

本年6月に国際エネルギー機関(IEA)が「安全な形で可能な限り長期に運転を継続するために、既存の原子力発電所の運転延長を承認すべき」という政策勧告を発表したことが原因でしょうか。
IEAがこのようなコメントをすること自体、国際情勢が世界のエネルギー情勢に影を落としていることを再認識できます。

原子力規制委員会が、エネ庁から運転延長についてのヒアリングを行なったようですが、このことも驚きです。
規制委員会は規制側、エネ庁は推進側。
これまでは利害相反であるとして、公式に会することもなかったと記憶しております。
どちらかというと規制委員会側に頑な印象を持っておりましたが、温厚な山中委員長に交代したのも一因なのでしょうか。
山中委員長は委員会の立ち位置を確認された上で「高経年化した原子炉の安全確認のための規制を明確化する」とコメントしておられます。

前に就活生のみなさんには、面接で必ず質問されるので定見を。
と申し上げましたが、すでにこの問題は一般的なトレンドワードに入っていると言っても過言ではないでしょう。
絶対に答えられないとダメです。
「知りません」と答えた瞬間にアウトでしょう。

経緯とともに何が問題なのか解説しまので、さらにご自身で調べてみてください。
私の結論は、原子力を純技術的に評価し、メカとして機能させるのが無理あるいは評価することができなくなった時が廃炉を検討すべき時ということです。
至極、当たり前の結論です。

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40年+20年ルールの是非。

2012年6月、東日本大震災による福島第一発電所事故を受け「原子炉等規制法」が改正されました。
それまで何の規制もなかった原子力プラントの運転期間を最大40年、1回に限り20年 を超えない期間延長することができることとされました。
すなわち、最高でも60年で原子力は廃炉ということです。
また、運転期間の延長に当たっては、原子力規制委員会規則で定める基準に適合するこ とが求められることとなりました。
これにより、高経年化した原発については新規制基準に適合するために、必要な対策を講じるか廃炉に踏み切るか、各電力会社による選別が求められることになりました。
これを40年ルール。
あるいは40年+20年ルールと言います。

40年+20年ルールの根拠。

何もありません。

当時のことを思い出してみました。
当時は民主党政権で、細野環境大臣(現自民党)が突然記者会見で、この方針を打ち出され、驚いた記憶があります。
記者に根拠を聞かれるとアメリカに準じた、的な答えだったと思います。
事実アメリカは「40年+20年ルール」ですが、世界で日本とアメリカだけです。
しかもアメリカでは、全体の90%のプラントに+20すなわち60年運転がライセンスされています。
アメリカ以外は運転期間の上限はありません。
そのお手本国も、安全確保というよりも電力会社による発電所の寡占をおさえるという狙いが強く、一旦認められると延長の回数制限もありません。
日本では60年運転が認められたのは、東海第二1号機、美浜3号機、高浜1・2号機の4機だけです。
40年とか20年の根拠は、当時電力会社の何人かの技術屋にも確認しましたが、全員「わからない」という答えでした。

このままで新増設がなく、厳格に40年ルールを守れば、2050年に稼働できる発電所はわずか3基になる計算で、ゼロエミッションの片方を失うことになります。
当時の原子力に対する雰囲気はよく分かりますが、今はもう少し「科学的合理性」を検討して見直す必要があると感じています。

規制委員会原案。

山中規制委員長が示された制度案は、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに劣化状況を確認した上で管理計画を策定し、規制委員会の認可を得るよう義務づけるということです。
要は運転開始から30年経過すると「人間ドック相当年齢」とみなし、10年ごとに「検査」するということです。
上限は設けないということですが、人間より厳しいですね。
30歳なんて働き盛りですよね。

山中伸介委員長は会見で、事業者が長期間にわたって原発を運転するハードルは今よりも高くなるという認識を示しました。
引用します。

運転開始から30年以降は、最長10年ごとに基準に適合していれば認可し適合しなければその時点で運転をやめていただくルールにつくりかえようという考えだ。
最長10年ごとに繰り返し認可を求めることは、現行の制度よりもはるかに厳しい規制になるという認識だ。

でも10年ごとに何を検査するんでしょうか。
30歳で「世界一厳しい健康診断!」。
なんかウンザリですよね。

検査項目は?

私見ですが、検査は是非、純技術的にやっていただきたいと思います。

みなさんクルマはどういうタイミングで乗り換えますか。
ほとんどが、走行距離、スタイルチェンジ、などでしょうね。
でも、クルマをメカとして見た場合はどうでしょうか。
最近の技術であれば、まだまだ走れますよね。
古くなると、ほとんどの不具合は放っておきます。
ただ、安全に関わる部品。
ブレーキ、タイヤ、シャーシなんかがやられると、やっぱり気になり取り替えます。
最後はエンジンです。
これは取り替えとか修理ではなく、クルマ自体の乗り換えですよね。

原子力も同じです。
ブレーキとかに該当するのが、一次冷却材ポンプ、一次系・安全系配管などです。
エンジンに当たるのが「原子炉圧力容器」です。

原子力は放射能を撒き散らし、関わる人間も金まみれ。
とにかくダーティー。
こういう見方を一旦捨てて、規模感・複雑さとかはクルマとは全く異なることは解りつつ、一つのメカとして見ていただきたいと思います。

原子炉圧力容器。

クルマでいうエンジンです。
ほとんどの部品はクルマと同様に取り替え可能です。
でも、これがダメなら諦めましょう。
電力会社・メーカーの原子力の技術屋さん!
という感じです。

「原子炉圧力容器」はそもそも最も強い形状で鍛造されています。
円筒型でしかも「一刀彫り」です。
しかし全てを形成するのは不可能です。
心配な上蓋との接点であるスタッドボルト、配管との溶接部、上部・下部の構造物などの点検は滞りなく実施しています。
問題は「中性子照射脆化」です。
難しいことを突然言い出してすいません。
金属は長く中性子に晒され続けると脆くなります。
他に、腐食とか金属疲労とかありますが「脆化」に絞ります。

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私の結論です。

「脆化」は、原子力発電所では設計段階から予測されています。
そのため、原子炉圧力容器と同じ素材の「テストピース」を原子炉内に設置し、定期的に脆化状況を検査しています。
高浜発電所のレポートを見ると、まだ「脆性破壊」の兆候は見受けられないということです。
高浜の場合、運転開始時に8ピース設置し、今回4個目を取り出したとのことです。
発電所を廃炉するかどうかはこの小さな「テストピース」次第です。

  • 明らかに「脆性破壊」がみられる場合
  • 設置した「テストピース」が無くなり、評価できなくなった場合。

それが運転限界だと思います。
私は事務屋なので、この程度しか解りませんが、とにかく科学優先であるべきと思います。

若き技術者に期待します。

原子力
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。