7年ぶり、政府の冬季節電要請。なんで?いつまで続くんですか?

停電中 エネルギーセキュリティー

政府は本年12月から来年3月まで、数値目標は設けない、無理のない節電要請を行なうことを発表しました。
※参照 読売新聞
ピーク時の予備力率3%は確保できているものの、何が起きるかわからないので、無理ない範囲で節電をお願いしますということです。
わけわかりません。
夏から思っていますが「無理ない範囲」「適切な節電」。
意味不明です。
エアコンは止めた方がいいんですか。
寒さに震えて生活し、体調を崩したら政府ではなく、あなたのせいという責任回避ですか。

SNSでも、非難轟々です。
私と同じ「意味不明」。
「夏から何をやってたの」。
「原子力を再稼働させるって言ってたのでは」。
「3%確保できているのになんで」。
「説明不足」。
いちいちごもっとも。

経済産業省の資料を紐解くともっとわからなくなります。
これまで・今後の対策を見ると、こんな感じです。

  • 広域機関による補修点検期間の更なる調整
  • 掲示板を利用した電源の経済合理性に関する事前確認
  • kW 公募の実施
  • kWh公募の実施
  • 広域期間によるkW、kWhモニタリングの実施
  • 発電事業者等に対する保安管理の徹底、計画外停止の未然防止の要請
  • 火力発電設備を保有する発電事業者に対する燃料確保の要請
  • 特定自家用電気工作物の設置者に対するDR契約拡充卸電力取引所への積極的な電力供出の準備の要請
  • 小売電気事業者に対する相対契約・先物取引等の拡大、DR契約拡充の要請
  • 対価支払型のDR普及拡大
  • 産業界や自治体に対する節電や緊急時における柔軟な対応への協力要請
  • 一般需要家に対する「無理のない範囲での節電」への協力要請
  • セーフティーネットとして計画停電の準備状況の確認

政府もいろいろなことをやっていること、アピールしたい感満載ですね。
本件のほとんどは、私が引退してからの出来事や制度改定が多いので、間違っているかもしれませんが、可能な限りで解説させていただきます。
また、最後に政府や経産省の意図(ただしこれは私の想像です)にも触れたいと思いますので、就活生のみなさまは是非注目願います。

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解説の前に感想。

解説させていただく前に、触れておきたい点が2点あります。
前述の通り今回の発表「無理のない範囲での節電」ですが、その次に、セーフティーネットとして計画停電の準備状況の確認とあります。
また、その前の項目には産業界や自治体には節電や緊急時における柔軟な対応を求めています。
「無理のない節電」とか言ってますが、産業界や自治体には無理をお願いしますよ。
本当に電力ひっ迫すると計画停電もあり得ますよ。
と言ってます。
「セーフティーネット」を張るわけですから、大停電は許しませんよ。
「準備状況の確認」ですから、経産省は確認するだけ。
主体は大手電力で経産省には責任はないですよ。
これが、政府・役所と電力会社の関係性です。

もう1点は、厳しい国際情勢への言及が一切ありません。
燃料調達の困難性は誰もが思うところですが、民間に対する燃料確保の要請としか書いていません。
政府が何をするのか、さっぱり見えません。
もちろん次項目以降では参考として、ウクライナ他の国際情勢に関する記載はありますが。

修理点検期間の更なる調整、電源の経済合理性の事前調査。

原子力はもちろん、全ての電源の保守・点検スケジュールや、老朽プラントの補修などが、大変な時期に重なっていないかどうかチェックしますよ。
当たり前の話です。
「経済合理性」とは、要は儲からないので休廃止されかかっているプラントがないかどうか、あるとしたら欲しい事業者がないか。
自動車の中古市場みたいなものです。
新古車なら別ですが、採算を云々されるようなものを本気で欲しいという方がいるのかどうか。
えらい疑問です。
でもまあ、ダメもとでマッチングに乗り出すということです。

kW、kWh公募とモニタリング。

kW公募とは、全国の一般送配電事業者9社が共同で電力逼迫時の供給力確保のために、広く一般から電力を入札で調達する制度を言います。
今冬の電力逼迫に向けての応札は完了し、昨冬のような需給逼迫は回避できる見込みとなったようです。
さらに電力量そのものを追加で確保しようという動きもあり、これをkWh公募と言います。
落札した事業者に対しては、需給逼迫時の自家発電設備のたき増しルールや燃料調達指針などの整備状況も、継続的にモニタリングすることとなっています。

保安管理の徹底と計画外停止の未然防止。

これは当たり前のことです。
全部電力会社の責任になりますので。
なぜわざわざ、後ほど触れます。

DR契約拡充、卸電力取引所への積極的な電力供出の準備。

特定自家用電気工作物とは単機で1000kW以上の発電設備を有するものという定義です。
ほぼ一般電力会社と鉄鋼メーカーのような高炉などを保有する会社に限定されます。
DR=デマンド・レスポンス、例えば電力ピーク時に需要を抑え、受給のバランス時や供給過多時に需要を増やすことのできる会社などとの契約を増やしたいということです。
当たり前のことで、これができることに対価を支払う契約もあります。
個人的には、徹夜作業など労働問題にならないのかと疑問に思っています。

そんなことで余剰電力を生み出し、卸電力取引所の活性化も狙いたいということです。
電力が足りないときに、まだこんなこと言ってます。

相対契約・先物取引等の拡大。

相対契約とは、小売電気事業者の今後の電力調達方法を指し示したもので、大手電力との直接取引のことです。
一昨年からの電力逼迫により、電力市場頼りの小売電気事業者の大規模倒産があり、どの会社も相対取引に傾斜しています。
ただこれも、取引商品が足りないというより「ない」時に成立する話だとは到底思えません。
先物取引など、もっとハイリスクと思います。

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私が考える政府の意図。

というより、私が恐れ多くも経産省の担当者なら、こう考えるという戯言だと思ってお聞きください。

冒頭お伝えしましたが、SNSで非難轟々です。
そうではなく、いろいろやってきている。
と主張しているかのように対策件名が列挙されています。
でも今回はそれを言いたいのではないと思っています。
経産省も本当にいろいろお考えになられて、なんとか電力逼迫を回避したいと思われておられる結果だと思います。
ただ「心配事」が多過ぎるのではないでしょうか。

  • 「補修点検時期の調整」「保安管理」や「計画外停止の未然防止」などという、電力会社にとって当然過ぎるワードを並べるほど、老朽火力の事故停止が心配なのではありませんか。
    私が入社した時に、私の今の年齢だった発電所に働けと言ってるわけですからね。
  • ここではあまり関係なさそうな「電力取引」にかかる話題を、いくつも出すほど電力取引所をどう成立させるかがご心配なのでは。
  • DRなどはみんなよくわかっている話です。
    一般には「無理のない範囲で」ですから、無理は産業界に行きますのでよろしく。
    と読んでしまいました。

ここからが重要です。
予備力率4.1%という、東京・東北は少し心配ですが、日本全体では、おそらく今冬の需給は大丈夫でしょう。
恫喝や煽りになってはダメですが、こういった透明性で、年2回程度は電力需給に関する話題を発信することは、しばらくは続くのではないでしょうか。
結果、原子力再稼働・新増設の国民的議論につなげることが可能だと思います。
原子力の「げ」の字も出てきませんが。

その意図を消すことが「意図」なのではないでしょうか。

エネルギーセキュリティー
塾長こと一村一矢

「電力会社就活塾塾長」こと一村一矢です。
電力会社のOBで、40年あまり原子力発電所を中心に勤務いたしました。
引退後は小説やコラムを書いています。電力ネタはあまり興味のあるモチーフではありませんでしたが、コロナ禍で企業や店舗がバタバタと倒れる中、電力会社への就職希望者が殺到という噂を耳にしました。 電力会社は今も安定企業なのでしょうか? 就活生のために私の知る限りの実態をお伝えいたします。